失明リスクの高い目の病気

「突然、黒い幕が下りて…」一過性黒内障は脳梗塞の前兆

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写真はイメージ(C)日刊ゲンダイ

「緑内障」「白内障」ときたら次は「黒内障」です。眼球自体には問題がないのに「突然幕が下りたように目の前が真っ暗になった」などといって、片眼または両眼の重篤な視力低下、あるいは失明状態に陥る病気です。その状態が数分から数十分で治まるのが一過性黒内障です。

 その発症頻度は緑内障や白内障に比べて少なく、神経眼科の患者さんが多い。私の医院でも月に1人か2人程度しかいません。しかし、一過性黒内障は脳梗塞の前駆症状である一過性脳虚血発作の前兆の可能性が高く、軽く考えてはいけません。一過性脳虚血発作をそのままにしておくと、15~20%の人が3カ月以内に脳梗塞を発症、うち半数は数日以内、早い人では48時間以内に脳梗塞を起こすとの報告があります。

 一過性脳虚血発作の原因は頚動脈などの血栓にあります。血中のコレステロールが高い中高年の患者さんでは、頚動脈にもアテロームというコレステロールの沈着が起こります。そこは血液が凝固した血栓ができやすく、その一部がちぎれて血流に乗り、脳や眼球に飛来することで一過性脳虚血発作が起こるのです。このとき、眼底の血管にその血栓が詰まってしまえば明らかな網膜動脈閉塞症ですが、眼底には異常がなく、眼科を受診した時には視力低下や視野欠損もなくなっている場合が「一過性黒内障」です。

 一過性黒内障が考えられれば、脳外科での画像検査と頚部と心臓のドップラー検査を早急に行う必要があります。私は近くの総合病院の脳外科の先生とあらかじめ打ち合わせておき、即時に電話予約をして「一過性黒内障の患者さんです。脳画像診断と頚動脈ドップラー、心電図、心臓エコー検査を含めた総合的な検査をお願いします」と連絡をするようにしています。

 検査の結果、まれですが、頚部のアテロームではなく、心臓の中にある良性腫瘍が見つかったりすることもあり、そのようなケースでは、間に合って良かったと思います。

 脳梗塞が脳の後ろの部分に起きれば、視野の欠損は脳病変の反対側の両眼視野欠損として表れます。眼科を訪れるのは、視野欠損発症後、数日経ってからということも少なくありませんが、まれに1時間前に起こったという場合もあります。しかし、これはたまたま運が良かっただけで、いつ脳梗塞が発症していてもおかしくない状態です。

 最近の脳梗塞に対する脳外科での治療は数時間を争うものとなっています。救急搬送して血栓溶解薬のt―PA(プラスミノーゲン・アクチベータ)を使った治療が適切に行われれば、脳梗塞による半盲も直後に消失することもあるのです。一過性黒内障が疑われる症状が出たら、すぐに眼科もしくは脳神経外科で診てもらうことです。

 (つづく)

清澤源弘

清澤源弘

1953年、長野県生まれ。東北大学医学部卒、同大学院修了。86年、仏原子力庁、翌年に米ペンシルベニア大学並びにウイリス眼科病院に留学。92年、東京医科歯科大眼科助教授。2005-2021年清澤眼科院長。2021年11月自由が丘清澤眼科を新たに開院。日本眼科学会専門医、日本眼科医会学術部委員、日本神経眼科学会名誉会員など。

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