後悔しない認知症

感情的な叱責はもってのほか 大切なのは認知症の親への敬意

写真はイメージ(C)日刊ゲンダイ

 認知症の親を持つ知人は「何回教えても、シートベルトを忘れてしまう」とこぼしていた。気分転換をさせようと親をドライブに連れ出すのだが、パーキングエリアでの休憩のたびにシートベルトの着脱を教えなくてはならないという。けれども、ドアの開け閉めはできる。それも力いっぱいドアを閉めるという。

 このエピソードから認知症の脳の変化の特徴が読み取れる。最近のクルマは軽い力でドアはきちんと閉まるが、昔のクルマはそうではなかった。力いっぱい閉めないと半ドアになりやすかった。シートベルトもなかった。つまり、脳のなかでは「シートベルトを着用しなければならない」という新しい記憶は欠けてしまったが、「半ドアに注意」という古い記憶は残存しているということだ。

 認知症の親にとって新しい情報の定着は簡単なことではないことを子どもは忘れてはならない。定着させるためには「優しく、易しく、丁寧に、辛抱強く」伝えなければならない。新しく覚えてほしいことをメモに書いてあげて繰り返し読んでもらうのもいいだろう。反復や文字による新しい情報の入力が脳の老化を遅らせることにもなる。認知症の親は幼児ではない。どんなに衰えても、人生の先輩として敬意をもって接することが大切だ。

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和田秀樹

和田秀樹

1960年大阪生まれ。精神科医。国際医療福祉大学心理学科教授。医師、評論家としてのテレビ出演、著作も多い。最新刊「先生! 親がボケたみたいなんですけど…… 」(祥伝社)が大きな話題となっている。

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