「食べ過ぎるから太る」は誤解 肥満の正体はホルモン異常

写真はイメージ
写真はイメージ(C)日刊ゲンダイ

 多くの人は「食べるから太る」と考えているが、本当だろうか? 力士やラグビー選手は、体重を増やすために食べる努力をするが、簡単には太れない。太れず悩む女性や老人も多い。「食べた分だけ太る」は本当なのか。早稲田大学持続型食・農・バイオ研究所重点領域研究機構招聘研究員の古谷彰子氏に話を聞いた。

「食べるから太るという考えには2つの誤解があります。ひとつは『脂肪=食事量(摂取エネルギー)―消費活動量(消費エネルギー)』という単純な計算式のみで表されるとの誤解です。その根底には、ヒトの摂取エネルギー量も消費エネルギー量も独立していて、ヒトの意思で左右できるという誤った考え方があります」

 実際は食べる量が増えればエネルギー消費量も自然と増える。食べ物を消化・吸収・解毒・排出したり、そこで得た栄養分を材料に新たなホルモン、熱、骨、血液などを合成したり、呼吸をしたりするためのエネルギー消費量が増えるからだ。

 逆に、食べる量が少なければこれらは抑えられ、食欲を刺激して摂取カロリーを増やす。摂取エネルギーと消費エネルギーは相関関係にあるのだ。

 もうひとつの誤解は、食べ物は等しく脂肪として体内に蓄積されるリスクがあるとの考えだ。

「同じ量を食べても、玄米と精製されたお米では脂肪として体内に蓄積される量は違います。同じ食用油でも、動物性と植物性でも違います」

 では、何が体重を決めているのか?

「ホルモンです。1食や2食、どんなにドカ食いしても、その後の体重が大きく変わらないのは、恒常性維持機能により、その人にふさわしい体重が設定されているからです。それを維持するために、ホルモンは体内のさまざまな器官に働きかけて摂取エネルギーと消費エネルギーをコントロールしているのです」

 つまり、痩せたい人は体重そのものでなく、設定された体重の値を下げる努力が必要だ。

 現在、体重の設定値に関係していると目されているのが、ホルモン分泌をコントロールする器官のひとつである脳の視床下部だ。実際、病気や事故で視床下部を損傷すると肥満になることが分かっている。

「肥満の人はホルモンが本来の機能を果たせない異常事態にある可能性があります。例えば、脂肪の蓄積が増えると脂肪細胞からレプチンと呼ばれるホルモンが分泌されます。それが血液を通じて視床下部に届くと“これ以上脂肪蓄積が増えないよう食欲を抑えて”という信号を送ります。しかし、肥満でレプチンが常に血液中に流れていると機能しづらくなります」

■イライラを抑え、インスリンを急激に分泌させない

 では、どうすれば痩せるのか? 体重の変化に関係するホルモンは甲状腺ホルモン、レプチンなどたくさんあるが、注目はインスリンとコルチゾールだ。

「インスリンは血液中の余剰な糖分をさまざまな形に変えて筋肉や脂肪細胞などに取り込み貯蔵します。コルチゾールは別名ストレスホルモンと呼ばれ恐怖や不安のときに分泌され、エネルギーを貯蔵庫から取り出していつでも使えるグルコースに変える。即時行動できるためです。ところが、すぐに逃避行動などに結びつかない慢性ストレスでもコルチゾールは分泌されるため、血中のグルコース値が高くなり、結果インスリン増加につながり肥満になるのです」

 つまり、イライラしない生活とインスリンを急激に分泌させない食事こそが痩せるコツなのだ。

「まずは一日の生活の起点で、体内時計とのずれを正してくれる朝食をしっかり食べることです。間食はせず、夕食と翌日の朝食との間隔を12時間以上空けましょう。睡眠の質も改善するはずです。ホルモンは主に食事を合図に分泌し、血液を介して体中に指令を出します。一日のうち食べない時間を長くすることはホルモンの機能を正常に保つことに役立ちます」

 インスリンを抑えるため炭水化物の量を減らすべきだが、工夫が必要だ。

「減らした分は健康に良い栄養素に置き換えましょう。そうでなければ空腹ストレスで太ります。炭水化物、脂質、タンパク質の割合を、エネルギー量換算で、おおよそ6対2対2にする」

 痩せたい人はお米を敵視しがちだが、誤解だ。

「かつての日本人は米中心の食生活を続けながら痩せていました。それは、太陽とともに寝起きすることで体内時計がきちんと作用していたことが大きいと思います」

 当時のお米が精製された糖質でなかったからというのもある。

「精製した糖質は血糖値を急上昇させ、強烈な幸福感をもたらします。砂糖のように高度に精製された炭水化物は依存性があり、満腹ホルモン機能を狂わせかねません」

 塩など刺激の強い調味料も体重にかかわるホルモンの働きを阻害する可能性がある。摂取を控えることが必要だ。

関連記事