天皇の執刀医「心臓病はここまで治せる」

血栓ができやすいかどうかは「CHADS2スコア」を活用する

順天堂大学医学部付属順天堂医院の天野篤院長
順天堂大学医学部付属順天堂医院の天野篤院長(C)日刊ゲンダイ

 血液の塊である「血栓」は突然死の大きな原因になります。たとえば心筋梗塞は、心臓に栄養と酸素を送る冠動脈が動脈硬化などで血管の内側が狭くなり、狭窄している部分の粥腫(硬くなった動脈の比較的軟らかい部分)が崩れることでつくられた血栓が詰まって起こります。そこから先の血流が途絶えて心筋が壊死し、30分~1時間くらいで致死性の不整脈が表れるのです。

 血栓が血管内を流れて脳の血管で詰まるのが脳梗塞で、これも命の危険があります。とりわけ、心臓や動脈でできた血栓が運ばれて脳の血管を詰まらせてしまうタイプは心原性脳梗塞と呼ばれ、その後に出血性脳梗塞になっての死亡率が高く、救命できたとしても半身麻痺などの後遺症が残りやすいことが知られています。

 自分の心臓や血管に血栓があるかどうかは、超音波検査(エコー検査)を受ければわかります。仮に血栓が見つかり、心筋梗塞や脳梗塞の予防が必要なときは、血液をサラサラにするワーファリンなどの抗凝固薬を服用する治療が行われます。

 もちろん、投薬治療が必要かどうかは医師が判断しますが、血栓ができやすいかどうか、心筋梗塞や脳梗塞を起こしやすいかどうかについては、自分である程度の“あたり”をつけることもできます。

 まず、心臓の中で血栓ができやすくなる原因がいくつかあります。「心房細動がある」「心機能が落ちている」「心臓全体が大きく、とくに左心房だけが大きい」「左心房の中に石灰化や筋肉の変性がある」などがその要素になります。もし、自分がそうした心臓のトラブルを抱えていれば、血栓ができやすいと考えていいでしょう。

■合計スコアが高いほど脳梗塞発症リスクがアップ

 また、「CHADS2」というスコアを確認することでも脳梗塞の発症リスクを評価することができます。5つの危険因子である「心不全や左室機能不全」(C)、「高血圧」(H)、「年齢75歳以上」(A)、「糖尿病」(D)、「脳梗塞や一過性脳虚血発作の既往」(S)の頭文字をとったもので、それぞれのリスクに点数が割り振られ、該当するリスクの合計点数が高いほど脳梗塞の発症リスクも高くなります。

 もともと心房細動患者に対する脳梗塞のリスク評価に使われているスコアで、抗凝固薬の投薬を実施するかどうかの指針になっていますが、心房細動がない、あるいは自覚症状がない人にとってもリスク判定の目安になります。CHADS2の危険因子を点検していって、当てはまる項目が3つ以上あれば、すでに血栓ができていてもおかしくありません。それが脳梗塞につながる危険も高いのです。該当する人は血栓があるかどうか、きちんと検査を受けることをおすすめします。

 とくに両親や兄弟姉妹といった近い親族に、生活習慣からくる心筋梗塞や脳梗塞を起こしている人がいる場合は、自分でCHADS2スコアの点数をつけてみて、合計点数が高ければそれを医師に伝えましょう。そのうえで、医師に抗凝固薬の治療を始めた方がいいのかどうかを判断してもらうのです。

 自分に当てはまる危険因子が1つだとしても、血栓をできにくくする生活習慣を心がけることが大切です。定期的に心臓疾患がないかどうかを点検したり、血圧を正常化したり、血糖をきちんとコントロールする……そうやって、できる限り危険因子を増やさないことが何よりの予防策になるのです。

 危険因子のひとつになっている「高齢」だけはどうしようもないと考えがちですが、そうとも言えません。もし75歳であれば、「まわりから75歳に見られない」ということが大事になってきます。医学的な見地からすると必ずしも正確とはいえないかもしれませんが、これまでの経験上、外見や行動がはたから見てとても75歳以上とは思えず、「60代にしか見えない」とか「行動が若い」と言われる人は、高齢が危険因子から外れているケースが多いのです。

 今後も75歳以上が総人口に占める割合が増えていく日本では、そうした考え方を持っておくことがますます重要になってくるでしょう。

天野篤

天野篤

1955年、埼玉県蓮田市生まれ。日本大学医学部卒業後、亀田総合病院(千葉県鴨川市)や新東京病院(千葉県松戸市)などで数多くの手術症例を重ね、02年に現職に就任。これまでに執刀した手術は6500例を超え、98%以上の成功率を収めている。12年2月、東京大学と順天堂大の合同チームで天皇陛下の冠動脈バイパス手術を執刀した。近著に「天職」(プレジデント社)、「100年を生きる 心臓との付き合い方」(講談社ビーシー)、「若さは心臓から築く 新型コロナ時代の100年人生の迎え方」(講談社ビーシー)がある。

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