自由診療の医師が解説「歯科矯正」今さら聞けない基本のキ

「マウスピース」が手軽で人気
「マウスピース」が手軽で人気/(C)日刊ゲンダイ

 わが子の歯並びを美しくしたい。しかし、費用や治療期間を含め歯科矯正のことがサッパリわからない。そんな親も多いのではないか? そこで歯科矯正も手掛ける自由診療歯科医で「八重洲歯科クリニック」(東京・京橋)の木村陽介院長に歯科矯正の基本の“キ”を聞いた。 

 さまざまな人種や宗教が混在する海外では「笑顔」が最大のコミュニケーションツールだという。「敵意がない」「友好的である」ことを伝えられるからだ。その笑顔をさらに魅力的にするのが歯列矯正。米国などでは「歯科矯正は親の責任のひとつ」と考える風潮があるという。

 ところが、多くの日本人は歯科矯正に否定的だ。「親からもらった体に不必要に手を入れるのはよくない」「治療が面倒くさい」「痛い」「矯正装置装着が格好悪い」というのがその理由だ。

「しかし、受け口、出っ歯、すきっ歯、叢生など歯並びがコンプレックスになって一生消極的に過ごす人もいます。それを解消するという意味でも歯科矯正はやるに値するものだと思います。目立たない矯正装置もあるし、マウスピースを装着するなど簡単な治療法もある。そもそも正しい歯並びは笑顔を魅力的にするだけではありません。咬合が良くなれば虫歯や歯周病になりにくくなり、上顎骨の前方への成長で横顔がスマートになり、肩こりが減る、発音がきれいになる、鼻呼吸になるなど多くのメリットがあります」

 では、歯列が乱れやすいのはどんな人なのか?

「両親の体格が大きく違っている人は遺伝的に顎と歯の大きさがアンバランスで歯列が乱れる場合があります。親が受け口の人は、子供も下顎が、上顎よりも出ていることが多い。歯列はわずかな力でも乱れるため、頬杖をつく癖がある人、指しゃぶりがひどかった人、アデノイドが大きいなどのため口呼吸になっている人、口呼吸で舌が垂れ下がり上顎でなく下顎の前歯を押している人なども注意が必要です」

■早期治療は必要?

 幼い時期は、下顎より上顎の方が早く成長する。そのため、早くから矯正するのは合理的でないという意見もある。歯科矯正はいつから始めればいいのか?

「矯正には永久歯を対象にした成人矯正と、それ以外の小児矯正があります。歯列の状態にもよりますが、私は4~5歳から始めてもいいと考えます。顎の成長が止まった大人の歯科矯正では、顎は動かせずに歯を動かす治療となります。そのため第1小臼歯などを抜歯して、歯の本数を減らすことで歯列を整えなければ治療が難しいケースも出てきます。しかし、顎の成長が続く子供の時期に治療すると、顎の成長をコントロールしながら歯科矯正でき、歯を抜かずにすむことが多い。上顎と下顎のアンバランスや歯と顎のアンバランスを是正することで、永久歯の正しくはえるスペースを確保できるからです」

 ただし、遺伝や骨格的な問題で、大人になってから再矯正が必要になる場合もある。だからこそ、ベテランの歯科医師への相談が大切になる。

「歯科矯正を始める前に歯型を取って、歯や顎の大きさを精密に計測します。ベテランの歯科医師ならその後、その人の歯や顎がどのように成長するかある程度予想できるはず。大人になるまで歯を診てくれる人にお任せするといいでしょう」

 歯科矯正というと、歯の表面にアーチ形のワイヤにつながれた「ブラケット」と呼ばれる装置を長く装着して歯列を整えるイメージが強い。

 他にどんな方法があるのか?

「歯の裏側に装着するブラケットもあります。ただし、舌が触れるため違和感があり装着期間も長くなるのが一般的です。ほかに顎の成長をコントロールするヘッドギアと呼ばれる装置や、歯列や顎の幅を拡大させるための拡大装置などがあります。また、歯を移動させて歯並びや噛み合わせを整えた後に後戻りしないための可撤式保定装置を使うこともあります」

 ただし、いずれの装置も数カ月から数年装着しなければならない。

 欧米の子供たちは「将来のために歯科矯正を受けている自分」に誇りを持つよう教えられているが、日本では逆に「特殊な自分」を恥ずかしく思う傾向がある。そのため、最近では着脱可能で手軽なマウスピースを使った歯科矯正が人気だという。

「“軽度の不正咬合にしか効果がない”“着け忘れると効果が元に戻る”などと言われますが、そのようなことはあまりなく、欧米ではマウスピースによる歯科矯正は常識となっていて効果は実証済みです。ブラケット装置と違って歯磨きもラクにできます。値段も他のやり方に比べて安い。小児矯正の場合、マウスピースを使えば歯列と共に歯槽骨や顎の矯正もできます。私はお勧めだと思います」

 なお、歯科矯正は基本的に自由診療となり、費用は数十万円から百数十万円かかるのが一般的。大人になるほど費用は高くなるという。

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