Dr.中川のみんなで越えるがんの壁

ヤフーの厚労大臣賞受賞で注目 がんの治療と仕事の両立

受賞企業の担当者と(左が筆者)
受賞企業の担当者と(左が筆者)/(C)日刊ゲンダイ

 毎年新たに100万人ががんと診断されます。がんになる確率は、男性は3人に2人、女性は2人に1人。決して珍しい病気でも、不治の病でもありません。

 そんなことをこの連載や講演などで何度となくお伝えしてきましたが、よもや自分が膀胱がんになるとはまったく思っていませんでした。統計的にはがんになるリスクの方が高いのに、です。

 現在58歳。新年は4日から通常通り放射線科医として勤務しています。仕事を休んだのは、年末の仕事納めの日のみでした。何が言いたいかというと、これからのがん治療は、仕事との両立がとても大きなテーマだということ。新規発症者のうち20万人は、65歳未満の働き盛り。すでに発症している人を含めると32万人に上ります。

 では、どうやって両立するか。厚労省は「がん対策推進企業アクション」に取り組んでいて、がん対策に取り組む企業をサポートしています。私はその議長に携わっていて、先日、先進的ながん対策を行っている企業の表彰式がありました。

 たとえば、厚生労働大臣賞を受賞したのはヤフーです。全8034人の社員を対象に「がん検診と早期治療の重要性」についてeラーニングを実施。社員の受診を促し、定期健康診断にがん検診の項目を組み込んでいて、勤務時間内に受診できるように仕事を調整しているそうです。

 社内には「健康相談窓口」があって、産業医・看護師に病気のことを相談できます。そうやって病院の主治医と産業医などが連携しながら、社員の部署に働きかけて治療と仕事の両立をサポートしているのは、素晴らしい取り組みです。担当者はスピーチで「弊社の取り組みをどんどん社外に発信してがん対策を啓発していきたい」と語っていました。

 大企業でなくても、がん対策は可能です。検診部門で表彰されたのは新潟の研冷工業で、社員数は30人。社長自らがん対策に積極的です。新聞などでがん対策の情報を知ると、朝礼で社員に伝えるだけでなく、社員共有のネット掲示板で掲示するとか。その取り組みが実を結んで、胃がん、大腸がん、肺がんの検診受診率は100%を達成しました。がん検診の受診率は5割ほどですから、画期的です。

 がんは生活習慣病の要素もあって、禁煙や節酒に努めて、適度な運動とバランスのいい食事を心掛ければ、発がんリスクは5~7割ほど抑えることができます。残りは、残念ながら運に左右されます。私も運動して、ノンスモーカーですから、膀胱がんになったのは運が悪かったとしかいえません。

 しかし、運が悪くてもちょっとした知識の有無で、その先の人生は大きく変わってきます。それが早期発見につながる知識で、それがあれば治療と仕事の両立はそれほど難しくありません。

 もちろん、末期での治療と仕事の両立も大切で、受賞企業はそこへのアプローチも整えていますが、個人として行動するなら末期を想定するより早期発見を心掛ける方が合理的でしょう。ヤフーも研冷工業も、そこに力を入れています。そういうことは読者の皆さんもできますから、頭に入れておいてください。

中川恵一

中川恵一

1960年生まれ。東大大学病院 医学系研究科総合放射線腫瘍学講座特任教授。すべてのがんの診断と治療に精通するエキスパート。がん対策推進協議会委員も務めるほか、子供向けのがん教育にも力を入れる。「がんのひみつ」「切らずに治すがん治療」など著書多数。

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