耳鳴りめまい難聴…聴神経腫瘍かも

聴神経腫瘍は“良性”脳腫瘍だが脳幹圧迫で命に関わることも

写真はイメージ
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 いま、私は東京医科大学病院で、聴神経腫瘍の手術を年間約100件手掛けています。患者さんの3分の2はほかの病院からの紹介で、残りの3分の1はインターネットで調べていらっしゃった方です。

 聴神経腫瘍について、どんな病気か想像がつきにくい方が多いのではないでしょうか?

 聴神経腫瘍は、良性脳腫瘍のひとつ。平衡感覚を担う前庭神経から発生します。“良性”と言いますが、聴神経腫瘍が大きくなると脳幹を圧迫し、命に関わります。また、そこまでいかなくても、聴覚をつかさどる蝸牛(かぎゅう)神経の圧迫が増すと、聴覚を失います。手術で腫瘍を取り除いても、すでに失われてしまった聴覚は元に戻りません。

 さらには、脳には運動や感覚をつかさどるさまざまな神経が集まっています。聴神経腫瘍ができる場所柄、手術での腫瘍摘出は非常に難しい。もし、治療の最中にほかの神経を傷つけてしまえば、顔面神経まひを起こすリスクがあるからです。

 患者さんの中には、「聴神経腫瘍です」と担当医に告げられ、病気の内容と治療法を調べれば調べるほど顔面神経まひなどの事例を目にし、恐怖に駆られながら必死になってインターネットで私の外来を知った方もいます。また、担当医から「大変な病気ですよ」「手術による後遺症も多いですよ」など辛辣なことを言われた方もいます。

 聴神経腫瘍の手術は非常に高度な技術を要求されます。できればこの手術を手掛けるのは避けたいと思っている医師もいるかもしれない。聴神経腫瘍の場所や大きさによっては、「この患者さんを治すんだ」という気概を持って治療に取り組まない限り、お手上げのこともあるからです。

 これまで在籍した病院ではほかの脳神経外科領域の治療も行っていましたが、聴神経腫瘍の患者さんが集中して来られることもあり、現在はこの手術が主になりました。次回は、聴神経腫瘍がありふれた病気と間違われやすいことについて触れたいと思います。

河野道宏

河野道宏

東京医科大学病院脳神経外科主任教授。聴神経腫瘍・小脳橋角部腫瘍・頭蓋底髄膜腫手術のエキスパート。

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