がんと向き合い生きていく

治療はしんどいが通常の急性骨髄性白血病なら約80%が寛解

都立駒込病院の佐々木常雄名誉院長
都立駒込病院の佐々木常雄名誉院長(C)日刊ゲンダイ

「思ってたより、数十倍、数百倍、数千倍しんどいです。三日間以上ご飯も食べれてない日が続いてます。でも負けたくない」

 競泳女子の池江璃花子選手(18)が、自身のツイッターにこう書き込んだと報じられました。何が数千倍もしんどいのでしょうか。おそらく白血病そのもののこともありますが、治療もきついのです。

 急性白血病の治療は白血病細胞を徹底的に叩くため大量の抗がん剤を投与します(寛解導入療法)。もし、治療しないで放っておいたら、感染症、貧血、出血などで亡くなってしまいます。抗がん剤で中途半端に叩いても、白血病細胞が残って意味がありません。大量の抗がん剤を使うと、白血病細胞ばかりでなく、正常な骨髄も一気にダメージを受けます。白血病細胞を徹底して叩いて、なくして、その後に骨髄には正常な造血細胞が出てくるのです。

 白血病の患者さんは、担当医から「完治を目指して頑張ろう。私たちも一緒に頑張ります」との言葉を信じて頑張ります。治療直後は血がつくられませんから、貧血には赤血球輸血、高度の血小板減少には血小板輸血を受けて回復を待ちます。

 白血球数もほとんどゼロになりますから、一番怖いのが感染症です。清潔な空気が流れるクリーンルームにいても、発熱を繰り返すことがあります。口腔粘膜もやられて口内炎を起こし、食事もつらくなります。

 治療開始後、約2週間で白血球数は最低となり、その後、次第に回復に向かいます。そして約1カ月後に正常細胞は回復し、骨髄中の白血病細胞の割合が5%以下になれば完全寛解となります。

 まさに“生還”です。

■抗がん剤を大量に使うから副作用も強い

 白血病細胞を叩いて死滅させる、骨髄をゼロにするほど徹底して叩く治療ですから、胃がんや肺がんのような抗がん剤治療とは異なります。

 一般的に、胃がんなどの固形がんでは、急性白血病の治療のように白血球数がゼロになるまで叩いたとしても、がんは小さくはなっても消えません。ですから、手術で切除できるものは切り取るのが第1手段です。しかし、血液のがんである急性白血病では手術はできないので、大量の抗がん剤で叩ききって治癒が得られるのです。そこに、急性白血病の治療の大変さがあります。大量の抗がん剤ですから副作用も強いのです。

「どんなことがあっても完全寛解に到達するんだ」

 担当医チームは、患者さんを励ましながら緊張の連続で、精魂込めて一緒に闘います。つらい時期を目の当たりにしているだけに、完全寛解に入った時は大きな喜びです。医師としてもこのうえない喜びがあります。

 昭和が終わる頃、私たちの施設の血液内科と私が所属した化学療法科(腫瘍内科)を合わせた学会発表で、「1施設で5年以上生きている急性白血病患者が11人いるのは日本で一番」と言われました。しかし、いまは違います。治療法、補助的な治療法などが進歩し、急性白血病の治療ができる施設ではたくさんの患者さんが治癒している時代になりました。

 通常の急性骨髄性白血病だとしたら、寛解導入療法で約80%の方に完全寛解が得られます(その中でもいろいろなタイプによって異なります)。もし、白血病の治療だけで完治が難しい場合は造血幹細胞移植(骨髄移植)が行われます。

 池江さんにとって、急性白血病になったことは本人でなければ分からないとてもとても大変なことですが、頑張ってほしい。報道によれば、池江さんは11日に「わたしは全力で生きます」と書き込まれていたようです。我慢せずに、遠慮せずに、つらいことを医療スタッフに伝え、そして乗り越えてください。

 完治するのです。医療スタッフには、どうかよろしくお願いいたします。私たちは静かに応援しています。

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佐々木常雄

佐々木常雄

東京都立駒込病院名誉院長。専門はがん化学療法・腫瘍内科学。1945年、山形県天童市生まれ。弘前大学医学部卒。青森県立中央病院から国立がんセンター(当時)を経て、75年から都立駒込病院化学療法科に勤務。08年から12年まで同院長。がん専門医として、2万人以上に抗がん剤治療を行い、2000人以上の最期をみとってきた。日本癌治療学会名誉会員、日本胃癌学会特別会員、癌と化学療法編集顧問などを務める。

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