肺がん治療最前線 新たな新薬発売で選択肢は5つに増えた

副作用少なく腫瘍が小さくなる
副作用少なく腫瘍が小さくなる(C)共同通信社

 3月1日、肺がんの新薬が発売された。肺がん治療の進歩は目覚ましいが、さらに治療の選択肢が増えたことになる。肺がん治療の最前線を聞いた。

 新薬「ダコミチニブ(商品名ビジンプロ)」が承認されたのは、非小細胞肺がんⅣ期のうち、「EGFR遺伝子変異陽性」に対してだ。Ⅳ期ということは、手術不能または再発がんとなる。

 肺がんは、非小細胞肺がんと小細胞肺がんに分かれる。非小細胞肺がんは遺伝子変異が原因となることが明らかになっており、どの遺伝子変異かによって治療が異なる。

 EGFR遺伝子は非小細胞肺がんの遺伝子変異の中で最も多くを占める。

 遺伝子検査でEGFR遺伝子変異が認められた非小細胞肺がんの場合、治療の第一選択肢は「EGFRチロシンキナーゼ阻害剤(以下、EGFR―TKI)」の投与。

 この薬のひとつが、ダコミチニブだ。

 近畿大学医学部内科学教室腫瘍内科部門・中川和彦教授が言う。 

「最初に登場したのが2002年承認の『ゲフィチニブ(商品名イレッサ)』です。それまでⅣ期の非小細胞肺がんは予後が悪かったのですが、ゲフィチニブは白血球が下がらず(副作用が少ない)、腫瘍が小さくなる。これは衝撃的でした」

 ただし、ゲフィチニブの効果は一時的で、治療を受けた半分の患者は10カ月ほどで効かなくなる。EGFR―TKIへの特定の耐性遺伝子(T790M)が現れることで薬が効かなくなる確率は50%。それ以降「第2世代」のEGFR―TKI「エルロチニブ」「アファチニブ」が開発されたが、副作用が強いなどの問題点があった。

■副作用少なく腫瘍が小さくなる

 そして18年、副作用が比較的少なく、ゲフィチニブよりも耐性遺伝子が現れにくい薬として登場したのが「オシメルチニブ(商品名タグリッソ)」だ。今回の新薬ダコミチニブは、オシメルチニブに続く薬になる。

 ダコミチニブの有効性と安全性は、日本も参加した「国際共同第Ⅲ相ARCHER1050」で確認されている。同薬とゲフィチニブを比較したところ、がんが進行せず安定した状態を意味する無増悪生存期間、全生存期間ともにダコミチニブが上回った。無増悪生存期間の中央値(被験者の真ん中の人の数値)はダコミチニブ14・7カ月に対し、ゲフィチニブ9.2カ月。全生存期間はダコミチニブ34.1カ月、ゲフィチニブ26.8カ月だった。

 最新の肺がん診療ガイドラインでは、Ⅳ期の非小細胞がんでEGFR遺伝子変異陽性に対する一次治療として、5つの選択肢が記されている。

「推奨の強さが一番なのはオシメルチニブ(18年承認)で、ダコミチニブはその次です。オシメルチニブの方がダコミチニブより毒性が弱く、無増悪生存期間が長いためです」(中川教授)

 ただ、選択肢5つのうち、どれを選んでもいい。最初にオシメルチニブを選ぶか、またはダコミチニブを選ぶか、または他の選択肢を取るか。

「患者さんがどういう治療を望んでいるか。たとえば副作用が少なく普通の生活を保ちたい患者さんには、オシメルチニブを提案する医師が多いかもしれません。しかし、オシメルチニブの場合、効かなくなったら次は抗がん剤になる。ダコミチニブなら効かなくなっても、特定の耐性遺伝子(T790M)が確認されればオシメルチニブが使える。次の選択肢が保たれている方がいい患者さんには、ダコミチニブを提案するかもしれません」

 ダコミチニブは発売されたばかりとあって、圧倒的に投与の経験数が少ないという点もある。

 しかし今回の新薬登場で重要なポイントは、選択肢が増えたということ。

 Ⅳ期の肺がん患者にとって、これは非常に大きいことなのだ。予後がさらに延びることも期待されている。

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