一滴からのがん検診

2020年1月に実用化「N-NOSE」 線虫が尿の匂いからがん検知

子供でも受けられる
子供でも受けられる(提供写真)

 2020年の1月から実用化される「N―NOSE」は、尿の臭いを線虫に識別させることでがんのリスク評価をする、世界的にも画期的な、生物によるがん検査だ。

 Nは、線虫を表す英語のNematodeから。NOSEは鼻、つまり嗅覚を表す。犬の嗅覚を利用したがん検査はこれまで例があったが、犬の嗅覚受容体は約800個なのに対し、線虫は約1200個。より高い精度が期待されており、オーストラリアなど、海外からも早くも注目されている。開発から実用化までを手掛ける株式会社HIROTSUバイオサイエンスの事業本部長・三沢一弘氏が言う。

「当社代表取締役の廣津崇亮が大学の研究室にいた頃、犬によるがん検査が注目されていました。しかし、犬には飼育のコストや、集中力を持続させなければならないなどの問題があります。これに対し、線虫は飼育コストが安く、本能的な行動を取るので、よりよい検査ができるのではないかと研究を始めたのが、同社設立のきっかけです」

 線虫は1万種類もいるとされているが、「N―NOSE」の検査に使うのは、土の中などにいる体長1ミリほどのC・エレガンスという線虫。検査は、シャーレの中央に50~100匹程度の線虫を置いた上で、希釈した尿を1滴垂らすことで行う。画像を見せてもらうと、健常者の尿からは線虫は離れるのに対し、がん患者の尿には見事に近寄っている。

 なぜこの線虫が、がん患者の尿の臭いを好むのかは明らかになっていないというが、臨床研究において、がんを検知する感度はステージ0から1でも87.0%と極めて高い。

「現時点では、がん種を判別することはできないので、陽性の場合は、さらに詳しい検査を受けることが必要です。しかし、手軽に受けられる検査なので、一次スクリーニングとしての利用価値はとても高いと思っています」と言う。

「N―NOSE」の利点として、簡便、高精度、安価、早期発見が可能、苦痛がない、全身網羅的、の6点を挙げる。

「症状もないのに胃カメラなどの検査には踏み切れないと思いますが、この検査なら簡便にできます。自分の家系にがんが多いなど、気になる人はもちろん、小さいお子さんも含めて、誰もが受ける検査になってほしい。30%程度という、先進国の中でも低い日本のがん検診率を高めるのが目標です」(三沢氏)

 現在、線虫の動きを解析する機械も開発中。検査料も取引先と相談中だが、なるべく安価になるよう、全力で調整している。

(フリージャーナリスト・里中高志)

関連記事