3月発売「酒を飲みたい気持ちを抑える」新薬は効くのか?

(C)eranicle/iStock

 今年3月5日、飲酒欲求の抑制さらに飲酒量を低減する新しい薬「セリンクロ」が発売された。このタイプに少し似ている薬が、2013年発売の「レグテクト」で、こちらは飲酒欲求を抑制する作用がある。現在、アルコール依存症の治療薬で主に使われているのは、抗酒剤2種類とレグテクト、そして今回の新薬になる。

 抗酒剤は飲酒後、激しい吐き気や頭痛などに襲われ、七転八倒の苦しみを味わうことが患者さんの間でも知られている。一方、新薬は抗酒剤のような激しい副作用はない。「服用時に飲酒したらどうなるか?」ではなく、飲酒欲求を抑え、さらに飲酒量を低減するのが新薬で、いわば「減酒薬」である。

「現場でレグテクトを服用する患者さんに聞くと、抗酒剤と違って効いているか効いていないのか分かりづらいそうです。飲酒につながるトリガーを引いた時は何が何でも飲みたくなり、薬で簡単に渇望を抑えられるものではない、と話す人もいます。しかし、『自分はアルコール依存症なんだ。飲んではいけないんだ』と自らに言い聞かせるための、お守りのような存在として役立てている人もいる」(精神保健福祉士・社会福祉士である大森榎本クリニックの斉藤章佳氏)

 となると、「飲んだらひどい目に合う」という心理的ブレーキがかかる抗酒剤に比べて、レグテクトや新薬の断酒のための治療効果は“弱い”のではないだろうか。これだけであの酒地獄から抜けられるのか、疑問を抱く人もいるだろう。

 しかし、アルコール依存症は、薬だけで回復していくものではない。認知行動療法や依存症当事者が集う自助グループ(AA・断酒会)への参加など、さまざまな方法で治療を行う。ほかの方法との組み合わせによって、飲酒量低減薬を使いながら断酒が可能になる人もでてくるかもしれない。むしろ、抗酒剤で挫折し、治療の機会から離れていた人が、再び治療につながる可能性がある。

「アルコール依存症に当てはまるほどではない。しかし、酒をやめたい」と思っている人もいるかもしれない。飲酒量低減薬は処方してもらえるのか?

「アルコール依存症と診断されていないなら無理でしょう」(斉藤氏)

 ただし、問題は本当に「アルコール依存症に当てはまるほどではない」のか、だ。飲酒により失っているものが多く、離脱症状などの身体症状も出ていてそれゆえに「酒をやめたい」のなら、すでにアルコール依存症の可能性が高い。飲酒が原因の家庭不和、健康面での問題、交通事故、遅刻や欠勤などの職業問題、犯罪に手を染める……などは過去になかっただろうか?

 また、「やめたくてもやめられない」場合も、アルコール依存症を疑った方がいい。

 なお、アルコール依存症は「毎日酒を飲んでいない」場合も、否定できない。たとえ週2~3回しか飲まなくても、飲み始めるとブレーキがかからなくなり泥酔まで飲んでしまう、そして飲酒するたびに問題飲酒に発展してしまうようなら、アルコール依存症を疑った方がいいだろう。

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