人生100年時代を支える注目医療

健脳ドックはアルツハイマー病リスクを早期予測し脳を守る

新井平伊医師
新井平伊医師(C)日刊ゲンダイ

 2025年には65歳以上の高齢者の5人に1人が認知症になると推計されている。現時点で根治する薬はないが、20年以上かけてゆっくり進行する病気なので発症を遅らせることは可能。その認知症予防に特化した次世代型脳ドックが登場した。昨年11月にオープンした「アルツクリニック東京」(東京都千代田区)が受け付けを開始した「健脳ドック」だ。

 従来の脳ドックと何が違うのか。国内のアルツハイマー病研究の権威で同院の認知症診療を担当する前日本老年精神医学会理事長の新井平伊医師(顔写真)が説明する。

「通常の脳ドックはMRI検査で行われ、脳血管障害と脳萎縮を見つけ出します。しかし、血管性認知症は認知症全体の2割ほどを占めるだけですし、脳萎縮も認知症がある程度進んでからでないと分かりません。一方、健脳ドックは、従来の脳ドックに『アミロイドPET検査』を加えています。これで認知症の約6割を占めるアルツハイマー病のリスクが早期に予測できるのです」

 アミロイドPET検査とは、全身のがんを調べるPET検査と同じ(使う検査薬が違う)で、微弱な放射能を出す検査薬を静脈注射した後にPET装置で頭部を撮影する検査。ターゲットはアルツハイマー病の原因とされる「アミロイドβ(ベータ)」というタンパク質。20年以上かけて脳内に蓄積する。この物質がどの程度蓄積しているか調べることでアルツハイマー病のリスクが分かるという。

■12項目の危険因子に相対リスクをかけてリスクを数値化

 同院のもうひとつの特徴は、新井医師が長年の研究で開発した「プラウドスコア(認知症発症リスクスコア)」を用いた予防対策。糖尿病などの生活習慣病をはじめ、難聴、うつ病、運動不足、睡眠不足など12項目の危険因子に相対リスクをかけて計算。認知症の発症リスクを数値化することができる。

 発症までは「発症リスクあり」「前駆状態」「軽度認知症(MCI)の疑い」の3段階ある。この期間に健脳ドックの検査結果に基づいて、生活改善や生活習慣病治療など認知症の専門医が早期から予防介入できる仕組みになっている。

「認知機能の低下はあるが自立した生活ができるMCIの状態でも、発症を遅らせる2次予防に取り組めば10~20%は元に戻る患者さんがいます。また、初期認知症の状態で見つかっても、早く治療を開始すれば効果が出やすく、自立した生活を長く続けられるのです」

 ただし、アミロイドPET検査は保険適用外で、現状では主に大学病院の研究を中心に行われている特殊な検査。しかも検査薬は使用できる時間が限られ、検査のたびに製造する必要があるので高額になり、同院の健脳ドックは通常1回受ける場合の費用は60万円(税抜き)もする。

 さらには、優先して健脳ドックを定期的に受診できる「丸の内倶楽部(個人・法人)」という15年会員制(入会金50万円、預け金150万円)もある。この場合には、1回目無料、2回目以降(配偶者も)は1回30万円。どんな理由で設けられたのか。

「そもそもアミロイドPET検査は高額になることから、健脳ドックは中小企業経営者や企業の重役などエグゼクティブ層を対象に考案しました。こういう方々の脳機能の低下は事業そのものに大きな影響を与えるからです。脳の状態を知ることは事業継承のタイミングなどにも関係するのです。これは『日本の頭脳を守る』というプロジェクトで、企業のリーダー層の認知症予防をすることは日本経済を強くし、医療により経済的繁栄に貢献することで、最終的に国の医療・福祉制度発展に寄与するとの考えです」

 各界リーダーの脳の健康をトータルケアする。同院が発信する新しい認知症医療の提案だ。

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