初めにお断りしておくが、私は介護の現場で働いたことはない。若年性認知症と診断された兄が2013年に亡くなったのをきっかけに、全国を回って数十人の認知症当事者に話を聞いたのだが、これから書こうとしているのは、そのとき得た知識を、いま介護している方たちに、介護される彼らからのメッセージとして伝えたいと思ったからだ。
介護している家族の中には「介護は大変だ」と言われる方が少なくない。でも、認知症の人に話を聞いてみると、家族が認知症の人の思いをよく知らずに介護するために、自ら介護を大変なものにしているのではと思うことがよくある。誤解の上に成り立った介護は、介護する方にも、される方にも、苦痛を与えるのは当然だろう。
では、双方になぜ齟齬が生まれるのだろう。ひとつには、「認知症になったら何も分からなくなる」と思っているから、本人に本音を聞こうとしないことだ。
そして「DrGoogle」という言葉があるように、多くの人にとって介護は初めての体験だから、介護に困ったら、ついネットで検索してしまうことだ。でも、Googleで調べたからうまくいったという話はあまり聞かない。なぜだろう。
これは、ネットだけの問題ではない。認知症について書かれた本もそうだ。認知症になると表れる症状について、いろいろ書かれているが、これはあくまでも平均値なのである。
例えば、アルツハイマー型なら記憶障害や判断力の低下、妄想、徘徊などと書かれているが、拙著「ゆかいな認知症」には記憶障害がない方も結構いる。というより、人によって症状が違っていて、十人十色なのである。
私は、認知症の人とは「障害者」であると思っている。その障害の種類や程度は人によってそれぞれ違うのに、安易にネット情報に頼るから間違うのである。
では、どうすればいいか。簡単だ。その人の何が問題なのかを、本人に聞けばいいのである。
これで認知症介護は怖くない