点滴架台を引き連れて歩く患者さん、車椅子やストレッチャーで運ばれる患者さんなど、さまざまな格好で桜の木の下に集まります。シートに座った患者さんは40人ほど。裏庭の桜は、木の下から見上げても枝はわずかで、花も少ししかなかったのですが、皆さん喜んでくれたようでした。
Aさんも花見に行くことを希望されました。Aさんは大量の酸素吸入が必要だったため迷いましたが、直前になって少し顔色も良くなり、「桜のところへ行きたい」と言われ、即、連れて行くことを決心しました。
酸素吸入の音をたてながらストレッチャーに乗ったAさんを、医師と看護師みんなで桜が咲いている枝の真下、花が顔にかかるほどのところまで連れて行きました。Aさんは顔の真上の桜の花を見て、「きれい、きれい」と喜んでいます。
これまで、呼吸の苦しみやつらさでずっとこわばっていたAさんの顔から、こわばりがまったくなくなって、にっこりと幸せそのもののように見えました。一緒にAさんを運んだ看護師たちと私も、汗を拭きながらお互いにっこりと顔を見合わせました。
がんと向き合い生きていく