病気の進行は誰も止められません。苦しい、つらい中で、誰もその運命をどうすることもできないのですが、その中でも一瞬緊張が抜ける、一瞬でも幸せを感じることができる――。人間とは、こんなにつらい状況になってもそれが可能なのだと思わされました。
桜の枝を折って、Aさんと一緒に病室に戻りました。Aさんがあんなに喜ぶなら、もっとたくさんの花がある桜を見せたかったと思いました。
それから2日後、Aさんは亡くなりました。私は彼女の2人の子供に「お母さんの分まで、元気に生きるんだよ」と声をかけました。まだ小学生だった2人は、泣きながら「うん」と頭を縦に振りました。子供たちは桜の枝を持って、亡くなったお母さんと一緒に寝台車に乗り込みました。私はその日が勤務の看護師たちと一緒に礼をして見送りました。
今はもうあの桜の木はなくなり、広い駐車場に変わっています。私の手元には、シートに座った患者さんと一緒に撮った写真だけが残っています。現在の病院では、あの頃のような「時間」や「余暇」を持てるとはとても思えません。
がんと向き合い生きていく