高濃度日の翌日は死亡率3%増「PM2.5」の誤解と真実

北京はこの状態
北京はこの状態(C)共同通信社

 どんなに健康に注意しても、汚れた空気の中で生活すれば体を壊すのは当然だ。日本ではそのリスクが高まるのが3~5月だといわれる。大陸の砂漠地帯で舞い上がった黄砂などのPM2.5が偏西風に乗り、日本に飛来するからだ。特にここ数年、お隣の韓国では異常発生しており、その影響が気になる人もいるはず。大気化学が専門で、中国国内の大気汚染物質の航空機観測を世界で初めて手掛けた埼玉県環境科学国際センターの畠山史郎総長に話を聞いた。

「PM2.5とは大気中に浮遊する、直径2.5μm(1μmは1㎜の1000分の1のこと)以下の粒子状物質(PM)を指します。吸い込むと鼻毛などでブロックされる花粉などと違い、肺の奥まで入り込み肺胞に達します。そのため、気管支炎や気管支喘息、肺炎など、さまざまな呼吸器系障害を起こします」

 PM2.5の一部はインフルエンザウイルスと同じ大きさの超微小粒子にばらけたり、血液に溶けたりして、全身の細胞内で活性酸素やサイトカインを発生させるなど、多くの悪影響を与える。

「発症のメカニズムや因果関係はハッキリとは分かっていませんが、肺がんなどの呼吸器疾患や脳梗塞などの循環器疾患、脳神経疾患や総死亡率のリスクを高める可能性があるとされています」

 米国6都市での研究ではPM2.5の平均濃度が25μg/立方メートル増えると、あらゆる原因による翌日の死亡率が3.0%増えたと報告されている。

 米国50州で30万人の成人を対象にしたコホート研究での報告では、PM2・5が25μg/立方メートル増えると全死亡率は10%、心肺疾患死亡率は16%、肺がん死亡率は21%増加したという。日本でも同様の報告が複数なされており、PM2.5の濃度の上昇と死亡率とは一貫性があることが明らかだ。

■韓国での濃度が高いと日本も危ない?

「中国からの大気汚染物質の影響を受けやすく、ディーゼル自動車の排ガスや火力発電所の排煙などから発生するPM2.5が多い韓国では深刻な状況です。しかし、大陸からのPM2.5は日本海に落ちるものもあり、日本に到達するものはそれほど多くはありません。公害の反省から、日本の大気汚染規制は厳しいこともあって、日本ではそれほど心配する必要はありません」

■少しでも吸い込むと病気になる?

「工場の排煙や自動車の排ガス、鉱山の粉じんなど人為由来のものをイメージしがちですが、黄砂や海塩、火山灰など自然由来のものも多く、地球で生存していればPM2.5を吸わずに暮らせません。問題はその量です」 日本の大気環境基準は年平均値が15μg/立方メートル以下で、かつ1時間値が35μg/立方メートル以下である。WHOは年平均で10μg/立方メートルで、かつ24時間平均で25μg/立方メートルとなっている。日本では環境基準とは別に注意喚起基準を設けており、1日平均値が70μg/立方メートルを超えると「不要不急の外出や屋外での長時間の激しい運動をできるだけ減らす」よう注意を促している。

「環境基準や注意喚起基準を超えたら直ちに危険というわけではありません。ただし、PM2.5の影響を受けやすい高齢者や小児、糖尿病や高血圧などがある人は慎重に行動する必要があります」

■付着した露地野菜食べても大丈夫?

「露地野菜などはPM2.5が付着しているので不安に思う人がいますが心配ありません。PM2.5は水でほとんど洗い流される上、体内に入っても多くは素通りするか胃や腸で分解され、排泄されます。出口のない肺に比べ、直接的な危険性は少ないと言えます」

 ちなみに日本の上水道は沈殿、ろ過、消毒の3段階で飲み水をつくっており、極めて安全性が高い。貯水池では水中で浮遊する物を集めて固める薬品や膜ろ過という高度な技術を使っていて、PM2.5による健康への直接的な影響はないと考えられている。

■海外から飛来する春だけ警戒すればいい?

「誤解です。関東では大陸に近い九州・沖縄などと違って越境PM2.5の影響は少なく、6割程度が国内発生によるものと考えられています」

 環境基準が厳しい日本では8対2で自然由来のものが多く、とくに気をつけたいのが火山灰。日本は世界有数の火山国で多くの活火山があり、その影響には注意が必要だ。

■手洗い・うがい・マスクは効果がない?

 目に見えない微小な粒子状物質だから、効果がなさそうだが、そうではない。

「ヒトは無意識のうちに手で顔を何回も触ります。その意味では手洗いは有効です。うがいも口腔内に付着した微小粒子を洗い流すには良い方法です。粗いマスクの目ではPM2.5がすり抜けてしまうから意味がない、と思われがちですが微小粒子はそれ自体が運動しているため、マスクである程度、からめとることができるので有効です」

 PM2.5の1時間ごとの測定値は、環境省大気汚染物質広域監視システム「そらまめ君」で見ることができる。

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