役に立つオモシロ医学論文

平均気温よりも低いとリスク増 気候変動と認知症との関係

東京ではしだれ桜も満開に(靖国神社)/
東京ではしだれ桜も満開に(靖国神社)/(C)共同通信社

 過去の研究報告によれば、気候の変化が健康に何らかの影響を及ぼすことが示されています。

 例えば、気温が下がれば血圧が高くなりますし、脳卒中のリスクも増加するという報告があります。また、降雪量と心筋梗塞の発症に関連性を認めたとする報告もあります。ぜんそく症状の悪化が季節の変わり目に多いことは、割と有名な話ではないでしょうか。

 気候変動と認知症の関連を検討した研究論文が2019年2月26日付で環境学の国際誌電子版に掲載されました。

 この研究は、米国の公的保険データを用いて、ニューイングランド地方に在住している65歳以上の高齢者、約300万人を解析したものです。人工衛星の画像データを利用して各地域の季節的な気候変動を高精度で予測し、夏季及び冬季の気候と、認知症による入院リスクとの関連性が検討されました。なお、結果に影響を与えうる、年齢、性別、社会・経済的状況などの因子で統計的に補正して解析を行っています。

 その結果、認知症による入院リスクは、夏季の気温が平均気温よりも高い場合、2%少ない傾向にあり、冬季の気温が平均気温よりも高い場合3%、統計学的にも有意に低いことが示されました。また、気温の変化が大きい地域で生活する高齢者では、認知症による入院リスクが高いことも示されています。

 つまり、平均気温よりも低い気候や、気温の変化が大きい地域に住んでいる人では、認知症による入院リスクの増加が示唆されているのです。かなり大規模な症例を解析したデータなので、偶然的に差が示された可能性は低く、気候変動と認知症の入院リスクには、ごくわずかであるにせよ、何らかの関連性が認められるのかもしれません。

青島周一

青島周一

2004年城西大学薬学部卒。保険薬局勤務を経て12年9月より中野病院(栃木県栃木市)に勤務。“薬剤師によるEBM(科学的エビデンスに基づく医療)スタイル診療支援”の確立を目指し、その実践記録を自身のブログ「薬剤師の地域医療日誌」などに書き留めている。

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