天皇の執刀医「心臓病はここまで治せる」

医師の考えを押し付けて透析中止に誘導するのは許されない

順天堂大学医学部付属順天堂医院の天野篤院長(C)日刊ゲンダイ

 なぜかといえば、それだけ日本の透析医療は手厚いサポートがあることを知っている人が多いからです。公的助成制度が確立している医療費だけでなく、身体障害者手帳を取得した場合は税金の免除や交通機関の割引など、福祉の面でもさまざまな助成を受けられます。

 これが、たとえば抗がん剤治療だった場合、医師が「よく効く薬があるんですが、かなり高額で自己負担が増えますよ」と伝えると、「これまでと同じ抗がん剤でお願いします」という患者さんが一定の割合でいるでしょう。しかし、透析は、「高い治療費がかかるんですよね?」とたずねてくる患者さんはまずいません。透析は、身体的なもの以外の負担が軽減される手厚い体制が整っているうえ、フリーアクセスで治療を受けられることを国民の大多数が知っているのです。

 それくらい成熟した“文化”として根付いてきているのに、非常に限定された地域の中で、「透析はこんなにつらいんですよ」とか「透析になったら生きていないのも同然ですよ」といったような誤解を招く知識を患者さんに提示し、透析を選ばないように誘導するのは許されないことです。仮に今回の福生病院もそうだったとすれば、透析を導入する前の段階で切り捨てられた患者さんは不幸だったとしか言えません。

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天野篤

天野篤

1955年、埼玉県蓮田市生まれ。日本大学医学部卒業後、亀田総合病院(千葉県鴨川市)や新東京病院(千葉県松戸市)などで数多くの手術症例を重ね、02年に現職に就任。これまでに執刀した手術は6500例を超え、98%以上の成功率を収めている。12年2月、東京大学と順天堂大の合同チームで天皇陛下の冠動脈バイパス手術を執刀した。近著に「天職」(プレジデント社)、「100年を生きる 心臓との付き合い方」(講談社ビーシー)、「若さは心臓から築く 新型コロナ時代の100年人生の迎え方」(講談社ビーシー)がある。

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