Dr.中川のみんなで越えるがんの壁

吉田拓郎さん喉のがん告白…放射線治療の期間は短縮傾向に

喉のがんを告白したシンガー・ソングライターの吉田拓郎
喉のがんを告白したシンガー・ソングライターの吉田拓郎(C)共同通信社

 ビックリされた方も少なくないでしょう。シンガー・ソングライターの吉田拓郎さん(72)が、自らのラジオ番組で喉のがんにかかっていたことが報じられました。私もファンのひとりだけに、驚いています。

 その後の報道によると、診断されたのは2014年。声帯に白板症という変化が発見され、これに関連して「放射線治療が2カ月間、始まりました」と吐露。治療の後遺症で、食事が喉を通らず、声は出ず、喉の痛みで、「半年間は苦痛の日々でした」と語ったといいます。

 ニュースに触れて、ちょっと気になることがありました。後遺症が半年も続いたことです。

 声帯にできる喉頭がんの治療は、病期によって異なりますが、手術より放射線治療が選ばれることが普通です。早期なら、治療成績は手術も放射線も同等。発声の機能は、生活する上でとても大切ですから、治療成績が同じなら放射線を選ぶのは合理的でしょうが、仮に早期の喉頭がんとすれば、放射線治療の後遺症が半年も続くことはまずありません。

 14年7月から喉頭がんの治療で放射線を受けた落語家の林家木久扇さん(81)は週5回、7週間通院して9月上旬に治療終了。治療が終わっても声が出ないことに不安を覚えたとメディアに語っていますが、2週間ほどで声が出て、9週間の休養で人気番組「笑点」に復帰しています。早期の喉頭がんは、声帯の周辺だけに集中して放射線を当てるためです。

■胃カメラでついでにチェック

 喉頭がんと違って、リンパ節転移が多い咽頭がんの場合、首に広く放射線を照射する必要があります。その際、以前は、耳下腺などの唾液腺にも放射線を照射していました。そうすると、唾液が出にくくなって、治療後も口の中の乾燥が続くこともありました。しかし今は、そういう後遺症を避けて照射する技術が開発されています。

 放射線の治療期間も、いろいろながんで短くなっている傾向です。木久扇さんは35回照射でしたが、今は25回に。乳がんで乳房を温存する治療では術後、放射線を行います。

 従来は25回ないし30回が一般的でしたが、1回の線量を上げて16回ないし20回で完了。もちろん、回数が多い時と治療効果は同じです。2週間の治療期間短縮は、大きいでしょう。

 前立腺がんの放射線治療は特に顕著で、36~38回と2カ月かけて行っていたのが、わずか1週間の5回に。治療効果は手術と同等で、尿失禁などの後遺症はありません。どれも、通院で照射できます。

 半年も後遺症が続いたとすれば、より広い範囲への放射線照射が考えられ、喉頭がんではなく、咽頭がんか特殊な喉頭がんだったのかもしれません。喉頭がんより副作用は強くなりますが、それでも多くは大体3カ月ほどで解消します。

 拓郎さんは03年に肺がんを公表。それをキッカケにたばこをやめたそうですが、肺がんの人は咽頭がんなどの頭頚部がんを併発しやすい。喫煙が両方のがんのリスク因子だからです。同じ理由で食道がんと咽頭がんも、飲酒と喫煙がリスク因子で、併発しやすい。

 では、咽頭がんを早期発見するには、どうすればいいか。禁煙や適量な飲酒を心掛けるのが第一です。それともうひとつは胃カメラでしょう。人間ドックなどで定期的に受けている人は、担当医に「咽頭も診てください」とお願いするのです。

中川恵一

中川恵一

1960年生まれ。東大大学病院 医学系研究科総合放射線腫瘍学講座特任教授。すべてのがんの診断と治療に精通するエキスパート。がん対策推進協議会委員も務めるほか、子供向けのがん教育にも力を入れる。「がんのひみつ」「切らずに治すがん治療」など著書多数。

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