100年老けない脳の作り方

脳を守る食事は「2つの油」が重要 医師の白澤卓二氏に聞く

ジョコビッチはグルテンフリーで世界王者に(右は上からココナッツオイル、さばの塩焼き)/
ジョコビッチはグルテンフリーで世界王者に(右は上からココナッツオイル、さばの塩焼き)/(C)新華社/共同通信イメージズ

 ヒトは年齢にかかわらず生きている間はずっと脳の神経細胞を増やしている――。昨年春、「ニューズウィーク」誌が、こんな米コロンビア大の研究論文を取り上げ話題になった。大人になると脳細胞は死滅する一方だと思っていたら、どうもそうではないらしい。50歳すぎ、いや60歳で定年になったからといって諦めることはない。脳を“鍛える”方法はあるわけで――。

「頭の中の霧が晴れるようだ」

 テニスプレーヤーのノバク・ジョコビッチ(セルビア)を世界1位に押し上げたのが食事の改善だった。食べるものを見直した途端に頭がクリアになって体のキレが増し、夢のグランドスラム制覇を成し遂げている。

 実は、最新の研究で、脳の働きは食事によって大きく左右されることが分かってきた。ジョコビッチのケースでは、頭に霧をつくっていた正体が小麦に含まれるグルテンだった。グルテンを取り過ぎると、脳が障害を受けることが分かったという。脳や長寿研究に詳しい「お茶の水健康長寿クリニック」の白澤卓二院長に聞いた。

「グルテンが分解されてできるエクソルフィンという物質はアヘンに似た作用を持ち、脳の関門を突破して脳に入り込み、オピオイド受容体と結合します。オピオイド受容体は、麻薬の受容体。それらが結びついている間は多幸感を生じる一方、なくなると不安になる。その結合は、暴走を抑える回路をブロックし、暴走を止めることができなくなり、やがて脳の神経細胞が死滅。その結果、引き起こされるのが、アルツハイマー病です。脳にとって、グルテンは敵でしかありません」

 ジョコビッチは、成人になってから発症するグルテン過敏症だった。そうでない人もいつ発症するか分からない。

■子供の偏差値が上がった

 それでは脳を守る食事とは、いったいどんなものか。重要なのは2つの油で、その1つがオメガ3脂肪酸だという。

「脳の細胞膜には、青魚に含まれるオメガ3脂肪酸が存在します。その濃度は、神経伝達に影響を与えるため、魚を多く食べる人ほど認知機能が高いのは複数の研究で明らかです。しかも、その効果は年齢を問わず、魚を多く食べる母の母乳で育った乳幼児が小学生になると、そうでない小学生に比べて成績が高いことも複数の研究で示されています」

 脳のエネルギー源はブドウ糖と考えられてきたが、最近は脂肪の代謝産物・ケトン体こそ重要と考えられる。

「脳をはじめとする神経の接合部であるシナプスには、細胞内のエネルギー工場のミトコンドリアが集まっています。ケトン体は、そこに直接作用するため、ブドウ糖よりエネルギー効率が高い。脳の神経細胞のエネルギー不足解消にうってつけで、シナプスの機能低下の改善が期待できます」

 そのケトン体の材料となるのが、もう1つの油、ココナツオイルだ。ココナツオイルは肝臓に運ばれると、ケトン体に代謝されるという。

「ブドウ糖の材料が炭水化物で、ケトン体の材料がココナツオイル。小学生と中学生にブドウ糖食とケトン体食を食べてもらって偏差値を比較すると、後者の方が高いことが分かりました。ケトン体食は血糖値の変動が少なく、食後に眠くならない。認知機能だけでなく、集中力を持続させる効果もあるのです」

 ケトン体を脳のエネルギー源とする食事法は「ケトジェニックダイエット」と呼ばれる。そのメニューはこんな感じだ。

▽朝食 午前7時前後にココナツオイル入りコーヒー1杯。
▽昼食 正午前後に卵料理と生野菜サラダ。
▽夕食 午後8時までに魚や肉と野菜を中心に腹八分目。

「朝のココナツオイルと、夜から朝にかけての12時間の“絶食”でケトン体が誘導されます。ただ、それには厳しい糖質制限が必要で、好きなものを食べられないのはつらい。そこで、夕飯に茶わん1杯の雑穀米やそばは食べていいことにします。アルコールも赤ワイン2杯まではOK。ただし、絶食時間は大切で、午後8時には食事を終え、午前0時には就寝してください」

 認知症になる前、軽度認知障害の段階でケトジェニックダイエットを取り入れると、確実に改善する。認知機能を守れるというから実践あるのみだ。

関連記事