がんと向き合い生きていく

家族が「最期の瞬間」に立ち会うことが難しい場合も多い

佐々木常雄氏(C)日刊ゲンダイ

 私はなんとなくこの場面がずっと頭に残っていました。臨終に間に合った、間に合わなかった、それがこの話に重なっていたのかもしれません。

■最近はいざとなってから蘇生術を行うことはほとんどない

 まだ携帯電話がない時代のことですが、何日もずっと一緒に病室で寝泊まりしていた方が、病院の近くの食堂に行っていたわずかな時間に患者さんが息を引き取り、とても残念がっていらしたことを覚えています。入院していた私の父(当時96歳)は、ある日の夕方に嚥下性肺炎を起こし、翌朝に駆け付けた時はもう冷たくなっていました。

 私の母(当時95歳)は食事が取れなくなり、入院中のある日、次第に血圧が下がって意識もなくなりました。その晩は私が隣に寝ましたが、翌日の夕方に「今晩は大丈夫だろう」と、一家でタクシーに乗って帰宅している最中に病院から連絡がありました。すぐに引き返しましたが、着いた時はすでに息を引き取っていました。

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佐々木常雄

佐々木常雄

東京都立駒込病院名誉院長。専門はがん化学療法・腫瘍内科学。1945年、山形県天童市生まれ。弘前大学医学部卒。青森県立中央病院から国立がんセンター(当時)を経て、75年から都立駒込病院化学療法科に勤務。08年から12年まで同院長。がん専門医として、2万人以上に抗がん剤治療を行い、2000人以上の最期をみとってきた。日本癌治療学会名誉会員、日本胃癌学会特別会員、癌と化学療法編集顧問などを務める。

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