これで認知症介護は怖くない

まるでそこにいないかのように無視され孤独を噛みしめる

写真はイメージ(C)日刊ゲンダイ

 佐藤さんは「困った認知症の父親」について私にこう言った。

「父親が、理由もなく茶碗を投げたり、大声で罵ったりするんだ。症状が進行したんだなぁ。そろそろ施設を探さないと……」

 その可能性は否定できないが、それまでの経緯を聞いてみるとこうだ。

 佐藤さんが実家に戻って半年もすると、父親は言葉がすぐに出てこなかったり、言ったことも忘れたりで「どうせ親父に話をしても分からんだろう」と、ケアマネジャーに相談する時も父親抜きで決めた。昔から家族3人で食卓を囲んで楽しく話し合っていたのに、その時分になると、父親そっちのけで母親だけと相談するようになった。認知症で判断力がないんだから、佐藤さんもそれが当然と思っていた。

「だってね、俺がデイサービスの感想を聞いてるのにちっとも返事をしない。それなのに10分も経ってから『あ、あれは……』なんて言い始める。冗談じゃないよ」

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奥野修司

奥野修司

▽おくの・しゅうじ 1948年、大阪府生まれ。「ナツコ 沖縄密貿易の女王」で講談社ノンフィクション賞(05年)、大宅壮一ノンフィクション賞(06年)を受賞。食べ物と健康に関しても精力的に取材を続け、近著に「怖い中国食品、不気味なアメリカ食品」(講談社文庫)がある。

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