性感染症最前線

腟トリコモナス症<1>男性は99%無症状も前立腺がんリスク

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写真はイメージ(C)日刊ゲンダイ

「腟トリコモナス原虫」と呼ばれる大きさ平均18マイクロメートルの小さな原虫が、性器内にすみ着いて発症する。しかし、男性が感染しても99%は無症状。まれに尿道炎を起こすくらいで、特徴的な症状は女性に表れる。性感染症専門施設「プライベートケアクリニック東京」(新宿)の尾上泰彦院長が言う。

「女性の典型症例では、泡沫状の悪臭(生臭い)の強い、黄緑色のオリモノが増加します。また同時に、腟やその周辺部分に強いかゆみや刺激感が表れる。しかし、感染したすべての女性ではなく、このような症状が出るのは60%くらい。ですから、ポピュラーな性感染症の割には注目されず、放置されているケースが多いのです」

 女性の感染部位で、原虫が好んですみ着くのは主に「腟」。それは原虫が盛んに消費するグリコーゲンが腟に多量に存在するからだ。原虫は3~5本の「鞭毛(べんもう)」と、ヒレのような動きをする「波動膜」を持ち、それを使って腟内を活発に泳いでいる。感染者の腟内の分泌液を顕微鏡で見ると、動いている原虫の姿がたくさん観察できるという。

 かといって、炎症や悪臭は原虫が直接の原因ではない。通常、腟内は最も優勢な乳酸桿菌(かんきん)がグリコーゲンを乳酸に代謝し酸性に保たれ、他の細菌の育成を抑制している。ところが、感染した原虫が拮抗してグリコーゲンを消費すると、乳酸桿菌が減少、ペーハーの上昇を招き、他の細菌が増殖して炎症が起こる。悪臭の原因も、嫌気性菌や大腸菌、球菌などが増殖するからだ。

 一方、男性では原虫は主に「前立腺」や「精嚢(せいのう=前立腺の後ろにある袋状の器官)」にすみ着く。

「男性では尿道から原虫が侵入しても、排尿で洗い流されてしまうので尿道にすみ着くことができません。それでも尿道から上行して、たどり着いた原虫は、前立腺や精嚢にすみ着くのです。感染すると無症状でも、検査で前立腺炎を有していることが多い。放置すると前立腺がんの発症に関与するといわれます。女性も放置すると不妊症や早産、流産を招く原因になります」

 治療はパートナーと一緒に受け、抗トリコモナス薬の内服や腟錠を10~14日間使う。再発も少なくないので、治療後10日以上経ってから治癒確認検査をした方がいい。再発の経過は、原虫の残存によるもの、隣接臓器からの自己感染、パートナーからの再感染がある。

 また、原虫は乾燥に非常に弱いが、水分があると、しぶとく生き残る。性行為だけでなく、濡れた下着やタオル、便器、浴槽などを介して感染する可能性はあるという。

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