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母子の絆や愛情に影響 「母乳育児」の大切さを見落とすな

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 医療関係者が母子を支援する際の手引とされている「授乳・離乳の支援ガイド」が策定後、12年ぶりに改定され、4月から活用される。

 改定版では、完全母乳栄養児と混合(母乳とミルク)栄養児とでは肥満発症に差はなく、「育児用ミルクを少しでも与えると肥満になる」といった誤解を与えないようにすることを明記。母乳にはアレルギー疾患の「予防効果はない」ということも新たに盛り込まれている。また、ミルクを選択する親の決定を尊重し、「母親に安心感を与える支援が必要」としている。

 これらの改定は、母乳の良さを強調するあまり、母乳が十分出ないなどでミルクを選択せざるを得ない母親を追い詰めてしまうことに配慮した内容だ。いわゆる「母乳神話」だが、2015年度乳幼児栄養調査では母乳で育てたいと思っている妊婦は9割を超えている。どんなことが問題なのか。母乳育児を推進する川口市立医療センター・小児科(埼玉県)の山南貞夫医師(顔写真)が言う。

「改定ではアレルギー疾患や感染症、肥満など体への影響ばかりが比較され、育児用ミルクと母乳とでは遜色ないことが強調されています。しかし、ミルクは母乳がどうしても出ない時の代用品であり、母乳かミルクか比較・選択するものではありません。母乳育児で強調されなければいけないのは、母子の絆や愛情など心への影響です。母乳育児率の向上は世界的な課題で、WHOとユニセフは共同声明で、『母乳育児成功のための10カ条』を守ることを呼びかけています。問題なのは国内の産婦人科の医師が、母乳育児の指導の仕方を知らないことです」

 10カ条の3条には「すべての妊婦に母乳育児の良い点とその方法をよく知らせること」とある。日本でも未熟児・新生児医療の草分けである故山内逸郎医師が「母乳育児成功のための山内の3・5カ条」を提唱している。1条「出産30分以内の授乳」、2条「24時間以内に7回以上の授乳」、3条「出産直後からの母児同室」、3・5条「陣痛発来後の乳管開通」。「3・5条」はWHO・ユニセフの10カ条に明記のない指導項目だ。

 これらの適切な指導を行うことで、山南医師は10年前までの約15年間、同センターの母親学級を一手に引き受け、完全母乳育児を98%まで達成することができたという。

「乳管が詰まって母乳がスムーズに出ない場合、乳管開通のマッサージが必要ですが、それがすごく痛いのです。ですから、陣痛が起きたら乳管開通を行うと、陣痛の方が痛みが強いので楽に乳管開通ができます。また、陥没乳頭でも乳管開通していれば、赤ちゃんは母乳を吸えます。それを最初から哺乳瓶でミルクを与えてしまうと、吸う力が楽なので赤ちゃんはお母さんの母乳を吸えなくなってしまうのです」

 混合栄養にするにしても、母乳育児に熱心に取り組む医師は、ミルクは哺乳瓶ではなく、スプーンで与えるように指導しているという。

■愛情ホルモンや免疫成分は添加できない

 母乳育児の「育児が楽しい」「子供の可愛さが増す」という理由は、授乳によって「プロラクチン」や「オキシトシン」などのホルモン分泌が高まるからだが、それは産後の傷ついた子宮の回復を早めるメリットもある。

「他にもミルクは母乳よりも眠りが深くなるので、乳幼児突然死症候群のリスクが高くなる。また、母乳には50~60種類もの免疫物質が含まれ、赤ちゃんの成長時期に合わせて成分比率が変化しています。そのような免疫成分をミルクに添加することはできません」

 山南医師は、人工栄養(ミルク)や混合栄養の育児をおもんぱかるあまり、逆に母乳育児の大切さがおろそかになることを懸念する。

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