今日から始まる「不老不死レストラン」。アンチエイジングに関する食の本は数限りなくありますが、いくら体に良くても、毎日そればかりでは、人間の食欲は満たされません。また、何かの摂取を抑えようとしても、それがストレスになれば、かえって体の負担になってしまいます。
そんな中、生物学者の福岡伸一先生と「人間にとって、とりわけ、私たち日本人にとって、本当に健康的な食事とはどういうものだろう」と、お話ししているうちに、自然と出てきたのがこの企画です。
「○○を取るべきだ」「○○を取ってはいけない」ではなく、福岡さんがまず、おっしゃったのが「塩分を抑えること」。そして、「旬の恵みを味わう」でした。なぜ、「旬のものがいいのか」は福岡さんに解説いただくとして、すぐに私が思い浮かべたのがアスパラと鯛でした。
アスパラのグラタンのポイントは塩をまったく使わないことと、アスパラにオリーブオイルで薄い膜をつけること。その方が体に良いだけでなく、アスパラの春の甘さを堪能できるのです。塩を強くしたら、せっかくの春アスパラの甘さが消えてしまいます。そして、世の中、味の濃いものがあふれていること。そんな味に慣れたら、長生きも何もありません。繊細な旬を味わおうとすれば、必然的に調味料は控えめになります。それが健康につながるのです。この料理の塩分はパルメザンチーズだけ。発酵食品のチーズにはアミノ酸が豊富なので、うま味が増します。最初は蒸し焼きにして、アスパラに火が通ったら、蓋を取り、卵を落として、もう一度、オーブンへ。それだけですけれど、見た目は豪華な仕上がりでしょ?
鯛のカルパッチョも最後に塩をほんの少々。ドレッシングも塩分を抑えるために柚子コショウを使っています。新玉ねぎは繊維に沿って切るのではなく、直角に切ること。そのあと冷水にさらすと繊維の断面から辛味が抜けて甘味が増します。これが春野菜をおいしくいただくコツです。
(材料)
・アスパラガス 太めのものを5、6本
・オリーブオイル 大さじ2
・白ワイン 大さじ2
・パルメザンチーズおろす 3分の1カップ
・卵黄 1個分
・白コショウ(粗びき) 適宜
(作り方)
(1)アスパラガスの軸下の硬い部分3、4センチを切り除き、穂先の下からピーラーで皮を薄く引く。
(2)オーブンを220度に予熱する。オーブンに入れる器に、アスパラガスを並べ、オリーブオイルを回しかけ、全体にからめる。白ワインを加え、パルメザンチーズをアスパラガスの軸下の部分に広げる(写真)。
(3)蓋をして(アルミホイルでもいい)オーブンに入れ、5分焼く。蓋を取り、卵黄を軸の上に置いたら蓋をせずに5分焼き、オーブンから出し白コショウを軽くして、熱いうちにいただく。
(松田美智子)
【アスパラガスのグラタン】チーズの塩分だけで春の甘さを
「旬(しゅん)」とは、その食材がもっともおいしく食べられる時期のことを指す。そして食材とは、それが動物性にせよ、植物性にせよ、すべて生物に由来するものであるから、もっともおいしい時期とは、その生命体がもっとも充実した生を送っている瞬間、ということになる。
そして月の上旬、中旬、下旬というとおり、本来旬は10日間を意味する。輝ける時は短いのだ。私たちはそれをいただくわけだから、まずは自然に対する感謝と畏敬の念が必要である。
さて、今回の旬の食材はアスパラガス。この名前は「新芽」を意味するラテン語に由来する。植物が、まさに今、芽吹くための栄養素を一身につくり出している時だ。うま味を呈するアミノ酸にアスパラギン酸がある。アスパラガスから発見されたゆえである。ほろ苦い、しかし深みのあるアスパラガスのおいしさの秘密は、たっぷり含まれているアスパラギン酸をはじめとするアミノ酸の風味に由来するところが大きい。新たな春の訪れとともに旬のおいしさを味わいたい。
(福岡伸一)
▽福岡伸一(ふくおか・しんいち) 1956年東京生まれ。京大卒。米ハーバード大医学部博士研究員、京大助教授などを経て青学大教授・米ロックフェラー大客員教授。「動的平衡」「芸術と科学のあいだ」「フェルメール 光の王国」をはじめ著書多数。80万部を超えるベストセラーとなった「生物と無生物のあいだ」は、朝日新聞が識者に実施したアンケート「平成の30冊」にも選ばれた。
▽松田美智子(まつだ・みちこ) 女子美術大学非常勤講師、日本雑穀協会理事。ホルトハウス房子に師事。総菜からもてなし料理まで、和洋中のジャンルを超えて、幅広く提案する。自身でもテーブルウエア「自在道具」シリーズをプロデュース。著書に「季節の仕事」「調味料の効能と料理法」など。