Dr.中川のみんなで越えるがんの壁

萩原健一さんは闘病8年 希少がんGISTでも5年生存率は5割超

萩原健一さん
萩原健一さん(C)日刊ゲンダイ

 ショーケンの愛称で知られる俳優・萩原健一さん(享年68)の訃報に触れ、改めて「自分が死ぬならがんがいい」という思いが強くなりました。2011年に消化管間質腫瘍(GIST)と診断されてから8年。10万人に1、2人の発症率の希少がんと人知れず闘っていましたが、最期まで人生をまっとうした姿が印象的なのです。

 昨年はNHKのドラマで度々存在感を見せていました。先月17日、ミュージシャンの内田裕也さん(享年79)が亡くなった際は、「近々、企画書を持って裕也さんと共演することを楽しみにしていました」とコメント。亡くなる前々日の先月24日には、ジムに通っていたそうです。容体が急変した理由は分かりませんし、ご家族や周囲の方々のつらさは察しますが、決して悪い最期ではないと思います。

 ぴんぴんコロリというと、心筋梗塞や脳卒中などの血管系の病気の突然死をイメージするかもしれません。医療の進歩でそういう病気でも救命率が高くなっています。そうすると、心機能が低下したり、半身マヒを負ったりして、つらい生活を余儀なくされることもあるでしょう。

 その点、適切な治療でがんと折り合って生活できれば、ショーケンさんのような最期を迎えることができます。

 4年前、肺がんで亡くなった愛川欽也さん(享年80)も、人気番組の1000回出演を達成。その降板直後の訃報だったことは有名です。

■発症のピークは60代

 ショーケンさんの命を奪ったGISTは、胃や腸など消化管の蠕動運動を調節する細胞から発生します。骨肉腫と同様に肉腫の一種で、男女差はありません。発症部位は胃に多く、中高年に発症しやすく、60代がピークです。

 吐き気や腹痛に襲われたり、下血や吐血、それらの出血に伴う貧血などの症状が表れたりするのは、腫瘍が大きくなってから。発見が遅れやすいゆえんですが、胃炎や大腸ポリープなど別の病気で受けた内視鏡検査により、早期で発見されることもゼロではありません。

 皆さん、気になるのが治療法でしょう。この病気の発生には、KITなどの異常なタンパク質が関わっていることが分かってきました。その流れを阻害する分子標的薬がイマチニブで、進行して転移がある場合に使われます。そんな薬の登場で非常に高い治療効果が示されているのです。

 さらにイマチニブが効かなくなればスニチニブを、スニチニブが効かなくなればレゴラフェニブを投与。効果的な分子標的薬が続々と登場したことで、半数を超える方が5年を超えて延命するようになっています。8年の闘病を続けたショーケンさんも、これらの薬を使い分けながら、がんと折り合って生活されたのでしょう。

 希少がんは厄介ながんと思われるかもしれませんが、治療法が確立されつつあるケースが珍しくなくなっています。

 やっぱり、自分が死ぬ時はがんがいいと思います。

中川恵一

中川恵一

1960年生まれ。東大大学病院 医学系研究科総合放射線腫瘍学講座特任教授。すべてのがんの診断と治療に精通するエキスパート。がん対策推進協議会委員も務めるほか、子供向けのがん教育にも力を入れる。「がんのひみつ」「切らずに治すがん治療」など著書多数。

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