性感染症最前線

ケジラミ症<1>陰毛の直接接触で人にだけ寄生する吸血昆虫

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写真はイメージ(C)日刊ゲンダイ

 サラリーマンのAさんは、昨年の夏、股間に激しい“かゆみ”を感じた。とっさに思い浮かんだのが「インキンタムシ」。ネットで調べてみると、股間に感染する水虫(股部白癬=はくせん)とある。そこで、薬局へ行き、水虫・タムシ治療薬を買ってきて数日間塗ってみた。

 ところが、一向に良くならない。再びネットで「股間のかゆみ」「原因」と検索。すると、インキンタムシ以外に、性感染症の「ケジラミ症」が挙げられていた。思い返してみれば、2カ月前に海外旅行へ行った時に風俗遊びをしている。そこで、かゆみの強いペニスの周りをまじまじと観察してみてビックリ。陰毛に得体の知れない小さな物体がたくさん付着している。怖くなって、急いで性病科を受診した。

 ケジラミ症について、性感染症専門施設「プライベートケアクリニック東京」(新宿区)の尾上泰彦院長が説明する。

「ケジラミは人にだけ寄生するシラミ(吸血性昆虫)の一種で、Aさんが発見したのは陰毛の根元近くに産み付けられた卵です。ケジラミはカニのような大きな爪を持っていて、左右の爪で陰毛をがっちり掴んで寄生しています。虫体は肌色に近く、血を吸った状態なら茶褐色になり目視で確認できますが、血を吸っていない時は見つけにくくなります」

 人の頭髪に寄生するアタマジラミや衣類に寄生するコロモジラミの体長は2~4ミリだが、陰毛に寄生するケジラミはそれより小さく、1ミリ前後。1日数回吸血した血液を栄養分として成長し、成虫の生存期間は3~4週間、その間に30~40個の卵を産む。卵は親が分泌するセメント様物質で陰毛に固定され、7日前後で孵化(ふか)する。

 症状は、寄生している陰部のかゆみだけだが、必ずしも感染者のすべてにかゆみが出るわけではないという。

「かゆみの原因は、蚊と同じようにケジラミが吸血する際に唾液成分が注入され、それに対する免疫反応です。ただし、かゆみの程度は個人差が大きく、数匹でも激しいかゆみを感じる人もいれば、多数いてもかゆくない人もいます。激しいかゆみの出たAさんはいいほうで、かゆくない人はケジラミがどんどん増えても気づかず、他人にうつしてしまうのです」

 毛布などの寝具やタオルを介した感染もあるが、ほとんどは陰毛の直接接触による感染だ。それは、ケジラミは人から離れると条件が良くても48時間以内に死んでしまうから。しかも、1日に10センチ程度しか歩行できないという。

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