心と行動を変える健康革命

ピンピンコロリを望むならそれに至る生き方を学び努力する

まず3通りの死にざまを知るべし
まず3通りの死にざまを知るべし(C)日刊ゲンダイ

 医師は多忙だ。毎日、多くの患者を診察し、各種の検査を指示する。そのデータを基に病名を診断し、患者に病気のリスクを伝える。

 その後、治療に適した医薬品や手術療法などを選択して、完治までのスケジュールを描き、経過を観察することになるが、本当にそれだけでいいのだろうか。

「多くの患者さんは、まだ深刻とはいえない検査データに安心し、将来の自分の健康に目を向けません。病気の恐ろしさが分からないからです。病後の生活と健康を維持できた時の生活の違いを実感してもらい、時に人生をマネジメントするのも医師の務めかと思うのです」

 教授として東京慈恵会医科大学病院(東京・西新橋)で「行動変容外来」も担当する横山啓太郎同大晴海トリトンクリニック所長は患者に以下の3通りの死に方を説明する。

①いわゆるピンピンコロリ。突然、枯れ木がポキンと折れるような死に方。

②心筋梗塞やがんなど、病気により、肉体、精神、社会、経済などの質が落ちていくパターン。

③徐々に生活の質が低下していく老衰。

「患者さんにこの3つを示すと、死について深く考えるようになります。多くの患者は①を希望します。病気、病院知らずの人生を送り、ある日、コロッと死ぬ。誰もが望む死に方です」

 これなら家族にも迷惑をかけないし、面倒な入退院を繰り返すこともない。

「しかし、理想の死に方を望むなら、それに至る生き方を学び、努力しなければなりません。暴飲暴食をしている人は病死を避けるため生活改善が必要です。太っている人には適度な運動とダイエットをしてくださいと指導します」

 患者は、医師の前では実に素直である。「はい!」と返事はするものの、病院を一歩出ると、普段通りに居酒屋に直行してしまう。調子に乗ると2次会へ。

 適度な運動も、頭では理解している。だが、多忙を理由に、三日坊主で終わる。

 これが平均的な日本人だ。だからこそ横山教授は、「行動変容外来」の必要性を力説する。

「患者さんの日常行動を変えていただくには、死に方を含めて『どうありたいか』を考えていただく必要があります。医師はそれに至る道筋を説明し、その患者さんに合った『やり方』を提供すべきです。それには、患者自身の考え方、生活パターン、宗教観など、幅広い点についてコミュニケーションを取り、理想を共有化することが不可欠なのです」

 薬を処方したら、治療は終わりではない。医師は患者の希望をかなえさせるのが仕事だ。患者が「ピンピンコロリ」を望むなら、そのゴールに向かう道のりをマネジメントするのも、医師の仕事であると説くのだ。

「医学の進歩で人が急死することは少なくなりました。そのため、医療は病気にならない予防に重点が移りつつあります。しかし、死ねない時代の健康維持は医師任せでは達成できず、患者さんの意思と行動力がなければ実現しないものなのです」

横山啓太郎

横山啓太郎

1985年東京慈恵会医科大学医学部卒。虎の門病院腎センター医員を経て現在、東京慈恵会医科大学教授。同大学晴海トリトンクリニック所長。

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