心と行動を変える健康革命

「改善策を話す」は限界 患者には“実験”に参加してもらう

生活改善のやる気を起こさせる“ライフデザインドック”
生活改善のやる気を起こさせる“ライフデザインドック”(C)日刊ゲンダイ

 高血圧や肥満といった「生活習慣病」の根本治療の第一は食生活の改善にある。しかし、いまの食事はなぜいけないのか、どう変えればいいのか。多くの患者は医師がいくら説明しても、長い間かけてつくられた食生活を簡単には変えようとしない。

 2月からSOMPOホールディングスの社員(写真)を対象に生活改善のやる気を起こさせるライフデザインドックをスタート。4月から一般への対応を始めた「東京慈恵会医大晴海トリトンクリニック」(東京・中央区)の横山啓太郎所長は「食生活を変えるには、患者さん自身が治療体験することが効果的」と言う。どういうことか。

「患者さんに医師になってもらい、アドバイスを考えてもらうのです。例えば、『もしあなたが医師の立場なら患者さんの病気を治すために、どのような食生活の改善を要求しますか』と質問すると、にわかに襟を正し、とうとうと改善策を話す患者さんがおられます。『では、おっしゃられたようにやってみましょうよ』と言うと、『そうだな』とやる気を見せる患者さんもいるのです」

 自分で考えたことだからこそ、やる気になるのだ。

 それでも生活習慣を変えられない患者には“実験”に参加してもらうことがいいという。

「日本高血圧学会は、塩分の1日の摂取量を6グラム未満としています。ずいぶん少ないなあ、と思われるかもしれませんが、世界保健機関(WHO)ではそれより少ない1日5グラム以下とする努力目標を掲げています。とくに生活習慣病患者やその予備群は、塩分の取り過ぎは病気を進行させ、体質改善の大きな妨げにもなるため厳格に守るよう指導します」

 しかし、塩分の少ない料理は刺激が少なく味気ない。医師から「塩分は控えめに。食卓に食塩を置かないで」と言われても患者は知らず知らずのうちに過剰な塩分の料理に慣れてしまっている。

「そんなときは看護師さんや管理栄養士さんに協力してもらい、患者さんの前に塩分摂取量を計算した(塩分チェッカー)3種類の味噌汁を並べます。しょっぱい味噌汁、普通の味噌汁、薄味の味噌汁です。これを飲み比べてもらうのです」

“実験”に参加した患者は、そのとき初めて自分が飲む味噌汁が普通の人とどれだけ違い、そこに含まれる塩分量がいかに多いかを知るという。

「一般的な味噌汁の塩分含有量は、平均2・2グラム前後でカップラーメンは5・5グラム程度です。1日にカップラーメンを1個食べただけで、1日の塩分摂取量はほぼ満杯になります。でも、カップラーメンを毎日食べる家庭はまずないでしょう。しかし、味噌汁は毎日飲む。だからこそ塩分摂取量の多さが常態化しやすいのです」

 味が濃い味噌汁を好む人は普段から塩分の多い食べ物を好みがちだ。

 自分の味噌汁がしょっぱいかどうかを知ることは、これまでの食生活を振り返るキッカケになる。

「その結果、自分の体を気遣うことの大切さに気づくことになるのです。健康とはどうあるべきか、そのための日常化とはどういうことか。自分で気づき、考えるようになると、食生活は自然と変わります。これまでの味噌汁はしょっぱかったから、これからは少し薄味にしようなどと行動が変わるのです」

横山啓太郎

横山啓太郎

1985年東京慈恵会医科大学医学部卒。虎の門病院腎センター医員を経て現在、東京慈恵会医科大学教授。同大学晴海トリトンクリニック所長。

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