早期がんは治る。この連載で何度となく語っていることですが、その可能性がさらに高まりそうです。光免疫療法に使用される薬剤が8日、厚労省の先駆け審査の対象に指定されました。
通常、薬剤の承認審査には1年以上かかりますが、画期的な治療法など一定の条件を満たすと、審査期間が半年ほどに短縮されます。今回の指定により、光免疫療法が年内にも国内で治療に使われそうなのです。難しい説明は後回しにして、まずはその効果から。
先行する米国の臨床試験では、再発頭頚部がんを対象に光免疫療法が行われています。
公開されている15人のうち14人は、がんが30%以上縮小。縮小効果を示す奏効率は93%。14人のうち7人は、完全に消えたのです。完全奏効率は47%に上ります。サンプル数が少ないとはいえ、標準治療では効果がない患者が対象ですから、この効果は画期的です。
日本では、国立がん研究センター東病院で再発頭頚部がんに対する臨床試験が行われていて、好ましい結果が出ていると聞きます。東病院では、近く食道がんを対象とした臨床試験もスタートする予定です。
■腫瘍の場所がネックに
注目の薬剤は、「ASP―1929」と呼ばれる物質。近赤外光線に当たると反応して、熱を発する性質があります。がん細胞のみに結合する抗体に、その仕組みを持たせ、注射で体内に入れ、ランプや内視鏡などで近赤外光線を当てると、化学反応の熱によってがんだけが死滅するのです。正常細胞に害を与えることはありません。
この薬剤が結びつく受容体はEGFRで、頭頚部がんのほか、肺がんや乳がん、大腸がん、食道がん、膵臓がんにも存在します。
理論上は、これらのがんにも効果があるはずで、全身のがんの8~9割は光免疫療法の対象になるといわれています。
先駆け審査の対象になった翌9日には、がんの10年生存率が発表されました。2002年からの4年間にがんと診断された約7万人が対象で、全体では昨年を0・8ポイント上回る56・3%。早期の大腸がんや乳がんは9割を超え、前立腺がんは100%。
肺がんは早期なら64・5%ですが、4期だと2・7%。難治がんといわれる膵臓がんは早期でも29%で、4期は0・6%に下がります。光免疫療法は、数値が良くない肺がんや膵臓がんへの効果も期待されていますから、今後、数値は改善されるでしょう。
しかし、問題点がないというわけではありません。光は無害ですが、届く範囲が限られています。皮膚に近い表在性腫瘍に限られているのは、そのためです。内視鏡で照射するにせよ、消化管から遠いと難しい。
光を放射線に替えると、その点は解決されますが、被曝などの問題が生じます。当面、がんができた場所がネックになりそうです。