心と行動を変える健康革命

医師よりデータ ウエアラブル端末が患者を積極的に変える

(C)日刊ゲンダイ

 生活習慣病の克服に消極的な患者を“その気”にさせるにはどうしたらいいのか? 東京慈恵会医科大学教授として本院で「行動変容外来」を主導しつつ、「慈恵医大晴海トリトンクリニック」の所長も務める横山啓太郎医師が注目しているのは「ウエアラブル端末」(着用できるコンピューター)だ。例えば、小さく丸いセンサーを上腕部に装着することで血糖値の近似値であるグルコースを15分ごとに自動記録する装置がある。最大14日分、1340回の測定データは患者が食事改善に向かう大きな動機付けになるという。

「手帳やスマホなどに食事した時間とその内容を記録しておき、後でその時間帯のグルコースのデータを見比べると多くのことがわかってきます」

“自分はパンを食べると○○分後に血糖値が急激に上がる”とか“野菜はほとんど上がらない”など自分の体質が浮かび上がってくる。そうすると血糖値が上がりにくいとされる食べ物を食べるようになり、その時のグルコースデータを見て、食べ方までも工夫するようになる。

「計測データを得ることで患者さんが自分を“実験材料”“観察対象者”として客観視するようになるのです。そして血糖値が上がるのはなぜか(問題の発見)、それを抑えるには何を食べればいいのか(仮説の設定)、それを実際に食べたときの実験データを分析し、結論を得て、さらに問題点を考える。健康を科学的に考えられるようになるわけです」

 その間、自身も知らなかった意外な事実に気付かされるという。

「私もこの装置を使い、血糖値の近似値を測定しました。私の場合、診療の合間におにぎりとシュークリームを食べたときの測定値は急上昇したのですが、その一方で病院から帰宅し、ネクタイを外してリラックスしながらすき焼きを食べビールを飲んだときは、血糖値は大きく上がりませんでした。診察を終えて、ほっと一息ついた後に会食したときも、測定値は上昇しません。同じ飲食をしてもリラックスしていれば血糖値は大きく上がらない。改めて食べるときの環境の大切さを実感しました」

 これは血糖値に限った話ではない。血圧もデータとその日の出来事を見比べればどんなときに血圧が高くなり、どんなときに落ち着くかがわかり、生活改善につながる。

「病気予防が難しいのは健康と病気は連続しており、明確な境界線がないことです。病気になりたくなければ常に健康を意識し、自らの身体状況を知っておく必要があります。幸い、リアルタイムで身体活動の基本データが取得できる各種のウエアラブルが開発されました。これらを活用して、自分の体に気を配る姿勢、思考が日常化されたらしめたものです」

 ちなみにウエアラブルのなかには記録する数値の対象が医療機器のそれと異なる場合もある。だからといってバカにしてはいけない。計測で大事なのはその変化であり、それを科学的思考で捉えることだ。

横山啓太郎

横山啓太郎

1985年東京慈恵会医科大学医学部卒。虎の門病院腎センター医員を経て現在、東京慈恵会医科大学教授。同大学晴海トリトンクリニック所長。

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