後悔しない認知症

キレやすい親には肉食などのタンパク質を取らせること

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写真はイメージ(C)日刊ゲンダイ

 最近「セロトニン」という言葉がテレビの健康番組、雑誌の健康特集などにたびたび登場する。セロトニンは神経伝達物質のひとつで、それが豊富なときは緊張状態が和らいだり、明るく前向きな気分になったりする。そのため「幸せホルモン」と呼ばれる。セロトニンの分泌を促すことが認知症そのものを改善するわけではないが、認知症の親に機嫌よく生きてもらうためには、忘れてはならない物質といえる。

 残念なことにこのセロトニンの量は加齢とともに減少する。その結果、イライラや不安に陥る頻度が増し、それが高じるとうつを発症することもある。また、痛みの刺激にも敏感になることもわかっており、多くの高齢者が訴える腰痛などもセロトニンの減少が原因のひとつといっていい。最近、腰痛治療にSSRI(選択的セロトニン再取り込み阻害薬)やSNRI(セロトニン・ノルアドレナリン再取り込み阻害薬)などのうつの薬が処方され、比較的有効とされるが、これはセロトニンの分泌と痛みの関係を示すといえるだろう。

 では、この「幸せホルモン」であるセロトニンを増やすにはどうすればいいか。

 セロトニンは脳内で作られる物質だが、そのもととなるトリプトファンという必須アミノ酸を摂取することが重要だ。このトリプトファンは肉、魚、大豆、卵、乳製品などに含まれており、これらの食品を高齢者の親に摂取させることを心がけたほうがいい。もちろん、トリプトファンの正常な吸収、セロトニンの産生を図るためには胃や腸、とくに腸の健康を維持することも忘れてはならない。

■「幸せホルモン」とコレステロールの重要性

 また、脳内にあるセロトニンは「鞘」のようなもので保護されているのだが、その「鞘」はコレステロールで構成されている。

 コレステロールというと、高齢者の健康を害するものと思われがちだが、コレステロールを減らしすぎるとセロトニンがうまく脳に送られず、脳の老化につながる。

 とくに肉にはコレステロールはもちろん、アミノ酸のもととなるタンパク質が豊富に含まれている。だから、高齢者こそ肉を意識して定期的に摂取するよう心掛けるべきなのだ。また、タンパク質の摂取は血管を健康に保つためには欠かせない。タンパク質不足の血管は柔軟性が乏しく、傷ついたり、破れたりするリスクが高くなる。血圧の上の数値がそれほど高くない人が脳卒中などの症状に陥ることがあるが、調べてみるとタンパク質不足が認められることが多い。

 かつては「高齢者は肉を控えろ」という主張が盛んになされたが、最近では「高齢者こそ肉を食べろ」という意見が支配的になりつつある。とかく質素な食生活に陥りがちな高齢の親には、定期的に肉などのタンパク質が豊富な食事を取らせることだ。

 そしてセロトニンを分泌するために忘れてならないのが「太陽の光を浴びること」と「リズミカルな軽運動」だ。そのためには高齢の親には規則正しい生活習慣を心がけてもらい、天気のいい日などはウオーキングをさせるようにしたほうがいい。

 セロトニンは興奮物質であるノルアドレナリン、快感や欲求をつかさどるドーパミンなどの神経伝達物質の分泌を調整する働きがあるとされる。最近「キレる高齢者」が話題になるが、感情のコントロールにもセロトニンが一役買っていることを覚えておいたほうがいい。認知症の症状も見せず、いつもにこやかな表情でポジティブな生き方をしている高齢者は食べ物をはじめとする生活習慣が健全で、セロトニンの分泌がうまくいっている人といえる。

和田秀樹

和田秀樹

1960年大阪生まれ。精神科医。国際医療福祉大学心理学科教授。医師、評論家としてのテレビ出演、著作も多い。最新刊「先生! 親がボケたみたいなんですけど…… 」(祥伝社)が大きな話題となっている。

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