がんと向き合い生きていく

抗がん剤治療で数カ月長生きすることに意味があるのか?

佐々木常雄氏(C)日刊ゲンダイ

 Bさん(70歳・男性)は、この1カ月ほど少ない食事でもすぐに腹がいっぱいになり、へその上に何か瘤が触れる気がして、Aがん専門病院を受診しました。超音波検査の結果、進行した膵臓がんと診断され、手術は無理で抗がん剤治療を勧められました。

 その数日後、私の外来に「治療をやるべきかどうか」について相談に来られました。BさんはA病院の主治医からこう言われたそうです。

「抗がん剤治療は、効くかどうかやってみないと分かりませんが、統計上は延命効果があります。治療ガイドラインでも選択肢のひとつとして推奨しています。Bさんの今の状態なら外来で治療可能です。もちろん無治療の選択肢もあります。無治療の場合は余命6カ月、治療した場合は1年くらいと思ってください」

 さらにBさんは次のように話されました。

「抗がん剤治療は延命効果だけとなると、意味がないんじゃないかと思うのです。いずれまた悪くなるなら、治療を受けない方がいいのではと考えています。先生はやって何か意味があると思いますか? これまで70年間生きてきて、数カ月ほど長生きすることに意味があるのでしょうか」

1 / 4 ページ

佐々木常雄

佐々木常雄

東京都立駒込病院名誉院長。専門はがん化学療法・腫瘍内科学。1945年、山形県天童市生まれ。弘前大学医学部卒。青森県立中央病院から国立がんセンター(当時)を経て、75年から都立駒込病院化学療法科に勤務。08年から12年まで同院長。がん専門医として、2万人以上に抗がん剤治療を行い、2000人以上の最期をみとってきた。日本癌治療学会名誉会員、日本胃癌学会特別会員、癌と化学療法編集顧問などを務める。

関連記事