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欧米で変わる検査基準 治療の基本は悪玉コレステロール値

日本式リスク計算では同じでも、米国式ではリスクが2倍も違う場合がある
日本式リスク計算では同じでも、米国式ではリスクが2倍も違う場合がある(C)ロイター

 欧米では2017年から生活習慣病関連(高血圧、糖尿病、脂質異常症)のガイドラインが次々と改定されている。それは、それぞれの病気の定義があいまいで、症状もないため、生活習慣病にかかっている人の多くが治療を受けていないからだ。

 生活習慣病の早期診断と適切な治療の目的は、心血管病や脳卒中などを引き起こす動脈硬化の進行を防ぐことにある。

「日本でも判断基準の手直しが必要」と指摘するのは平成横浜病院・総合健診センター(横浜市戸塚区)の東丸貴信センター長。

 欧米のガイドラインは何がどう変わったのか。

「改定で大きく変わったのは、LDL(低比重の悪玉)コレステロール値を中心に治療の指針を決めるようになったことです。値が190㎎/デシリットル以上か糖尿病があれば、脂質低下薬のスタチンを使う。そして、40~75歳(糖尿病なし)で値が70~190の間の人は、10年以内の心血管病の発症確率をリスク計算式で出して、その危険度ごとに個別に治療するようになりました」

 心血管病の発症確率を予測する米国のリスク計算式では、血圧、善玉(HDL)と悪玉のコレステロール、総コレステロール、喫煙、糖尿病、高血圧症の既往などを入力する。日本では考慮されない血圧高値もリスクとして計算され、血圧の薬の使用も考慮される。

 発症リスクが5%以上あれば、スタチンを使った治療を検討する。さらに7・5%以上で慢性腎臓病、メタボなどのリスク増加因子があれば、スタチンによる治療を行う。

「日本にも独自のリスク計算式(吹田研究)がありますが、いくつか問題点があります。たとえば正常血圧と正常高値血圧のリスクは同じで『0点』、55歳と69歳の年齢リスクは『6点』しか違わない。また、LDLコレステロールのリスクは『100~139が5点』で『140~159が7点』とほぼ同等です」

■心血管病リスクは日米の計算式で2倍の差が

 日米のリスク計算式を、男性2人の患者に当てはめてみるとどうなるか。

 東丸センター長の試算では、日本スコアによる10年以内に冠動脈疾患が生じる確率は2人とも同じ4・2%の中リスクでも、米国スコアでは7・5%と12・2%と開く。

 日本式では同じでも、米国式ではリスクが2倍も違う場合があるという。この場合、日本ではLDLコレステロール140㎎/デシリットル以下が目標だが、米国ではLDLコレステロールを30%以上低下させることが必要とされる。

 また、米国では高血圧症の定義は収縮期血圧(上)130㎜Hg以上、拡張期血圧(下)は80㎜Hg以上と基準値が下げられた。糖尿病も厳格なコントロールのみでは心血管病の十分な予防ができないことが分かってきている。今年の米国のガイドラインでは一般的治療目標はヘモグロビンA1cが7%以下に緩められた。

「閉経後の女性では、半数近くが脂質異常症と診断されますが、治療方針をコレステロール値のみで決めるのは困難です。米国スコアを参考として取り入れることで、本当に薬物治療が必要なリスクの高い人を選別でき、冠動脈疾患の予防と過剰治療を抑えることができます。また、判断が難しい場合は冠動脈CTなど画像検査で動脈硬化の有無を確認することが必要です」

 75歳以下で動脈硬化症の治療が必要な人は、血圧130/80㎜Hg以下、悪玉コレステロール70㎎/デシリットル以下を目標とした治療を受けることが望まれるという。

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