半世紀前、日本人の100歳人口はわずか153人(1963年)に過ぎず、所在する市長から祝いの長寿賞が贈られた。
それはもう昔話。2016年には100歳人口が6万5000人を数え、2050年には100万人を突破するだろうと推測されている。
まさに100年ライフ時代の到来である。この長寿化時代をどう生きるのか。多くの中高年が不安を抱え、立ち尽くしているのではないか。
3年前、「ライフ・シフト 100年時代の人生戦略」(リンダ・グラットン、アンドリュー・スコット著=東洋経済新報社)がベストセラーになったのは決して偶然ではない。
東京慈恵会医科大学病院(東京・西新橋)で「行動変容外来」を担当しつつ同大傘下の晴海トリトンクリニック所長も務める横山啓太郎教授が言う。
「これからの長寿化社会で問題となるのは高齢者の健康だけではありません。その経済力や生き方など幅広い問題に社会がどう対応するかが重要な課題になるに違いありません」
高齢な患者に最も近い立場になるであろう医師は好むと好まざるにかかわらず、必要に応じて患者の人生を思考し、健康デザインを描いて指導する責務もあるのではないかと横山教授は言う。
「サラリーマンなら60歳で定年退職後、人生のゴールを迎えるまで、残り20~30年を生きていかなければなりません。それもこれからは技術革新により社会も個人も大きな変化を強いられる。高齢者といえども例外ではないでしょう。自分を変えられない頑固な年寄りはますます息苦しくなり、ピンピンコロリに代表される元気で死ぬことは難しくなるのです」
だからこそ今、医師はもちろん、患者も生活習慣病の克服を介して「患者の行動を変え、考え方を変える」技術を学ばなければならないと横山教授は言う。
「いまは医学が進歩し、新しい医療法の導入が盛んで、医療体制も大きく変化しています。その結果、人は簡単には死ななくなりました」
例えば急性心筋梗塞で亡くなるケースは激減している。
急性心筋梗塞の院内死亡率は1978~82年は16・30%だった。それが2000年には4・90%(国立循環器病研究センター)まで改善されているのだ。
これは救いだが、他方、長寿時代到来で、高齢者の「生活習慣病」激増は避けられない。
「このとき単に“リスクを避けて、適度な運動をしてください”と指導しても高齢者はなかなか守れない。では、どうしたら患者さんが治療する気持ちになるのか。医師と患者さんが互いの解決方法を見いだす努力が必要なのではないでしょうか」
患者に、これまでのふしだらな生活Aを、新たな生活Bに変えてくださいと指導しても、実行は容易ではない。
でもAとBの違いを説明したら理解ができる。患者自らにAとBの生活を整理してもらい、健康長寿のための方向性を示せば状況は変わる。
「健康長寿を全うするために、運動等の行動改善ができるのは、人間だけに与えられた選択です」
心と行動を変える健康革命