Dr.中川のみんなで越えるがんの壁

堀ちえみさんは舌と食道に…重複がん早期なら治癒の可能性

堀ちえみさん
堀ちえみさん(C)日刊ゲンダイ

 そんなに続けて……。

 そう思われた人は少なくないでしょう。

 今年2月に舌がんの手術を受けたばかりのタレント・堀ちえみさん(52)が食道がんであることを公表。今月16日には、自らのブログで内視鏡手術が無事に終わったことを報告したのです。

 2カ月ほどの間に相次いだがんの公表に、一般の方が驚くのは当然かもしれません。ポイントは食道がんが、舌がんの転移ではなく、それぞれ別のがんだということ。医学的には別個に発生したがんを「重複がん」といいます。

 ある臓器から別の臓器に転移したがんは「転移性がん」で、たとえば胃がんが肝臓に転移したものは転移性肝がんです。

 胃のがんが肝臓に流れていったものと考えるため、治療法は胃がんの性質を基に組み立てるのです。

 一般に転移性がんは進行がんで、早期に比べると、治癒の可能性が低い。

■「肺と咽頭」「胃と大腸」も

 一方、重複がんはそれぞれ別のがんですから、治療法はそれぞれのがんのガイドラインがベースに。どちらも早期なら、治癒の可能性は十分でしょう。重複がんは1個でもたくさんでも、とにかく早期発見が大切なのです。ブログによると、内視鏡で行われた手術は、がんがある粘膜下層より上を切除して1時間ほどで終了。組織を病理検査して、今後の治療方針を決めるそうです。

「今回の病気は早期に発見できた事が、とても大きかったと思います。早くに見つけてもらえたから、内視鏡で切除する事ができました」

 まったくその通りなのです。読者の皆さんは重複がんを心配されるでしょうが、重複がんでも2つ目からは、一般に早期に発見されやすい。

 がんの治療は5年をメドに考え、その間は定期的な検査が必須です。検査は、大本のがんの治療効果をチェックするだけでなく、転移の有無を調べるものもあります。その転移の有無を調べる過程で、画像検査に怪しい影が見つかると、そこから重複がんが早期に発見されやすいのです。

 舌がんや咽頭がんなどは、頭頚部がんに含まれます。その頭頚部がんは食道がんと重複しやすい傾向があります。どちらのがんも、たばことアルコールがリスク因子で共通するためです。重複しやすい組み合わせとして、肺がんと喉頭がん、胃がんと大腸がんも珍しくありません。

「たくさんの皆様に、感謝の気持ちを忘れず、これからも歩んでいきたいです」

 手術を終えた堀さんは周りの方への感謝の気持ちとともに、前向きなコメントでブログを結んでいます。重複がんは比較的、転移がんより治療効果が高いので、決して諦めることはありません。

中川恵一

中川恵一

1960年生まれ。東大大学病院 医学系研究科総合放射線腫瘍学講座特任教授。すべてのがんの診断と治療に精通するエキスパート。がん対策推進協議会委員も務めるほか、子供向けのがん教育にも力を入れる。「がんのひみつ」「切らずに治すがん治療」など著書多数。

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