がんと向き合い生きていく

かつては日本版の「看取りのパス」が使われていた

佐々木常雄氏(C)日刊ゲンダイ

 また、論文では「患者に『死について』話してもよいか? 家族はどう思っているかなど、スタッフは対応に不安があった。しかし、このパスにより、ほぼすべてのスタッフが迷い、ためらいといった消極的感情を捨てることができた」としています。

 死亡3日前くらいの状況でパスに入るようですが、そのとき患者には「栄養、抗生剤の点滴をやめます」「パスに入ります」と告げるのでしょうか? インフォームドコンセントができているといっても、私は「患者の心は大丈夫なのだろうか?」ととても気になりました。

 該当する緩和病棟を直接見たわけではないので、勝手なことは言えません。ただ、患者は死を受容していたとしても、きっと心の奥には「生きたい」という気持ちが残っていると思うのです。臨終期にあって、医療者には、生きていていいんだよという心、命を惜しむ心、別れの悲しみ、哀れを感じる心、未練を肯定する心があると思うのです。ですから、スタッフにはむしろ迷いやためらいを捨てて欲しくないと私は思います。

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佐々木常雄

佐々木常雄

東京都立駒込病院名誉院長。専門はがん化学療法・腫瘍内科学。1945年、山形県天童市生まれ。弘前大学医学部卒。青森県立中央病院から国立がんセンター(当時)を経て、75年から都立駒込病院化学療法科に勤務。08年から12年まで同院長。がん専門医として、2万人以上に抗がん剤治療を行い、2000人以上の最期をみとってきた。日本癌治療学会名誉会員、日本胃癌学会特別会員、癌と化学療法編集顧問などを務める。

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