これで認知症介護は怖くない

認知症の当事者は本当に「あてもなく」歩くのだろうか

写真はイメージ(C)日刊ゲンダイ

 都内に住む西光男さん(仮名)は、「徘徊」を繰り返す認知症の母親に困り果てていた。私が母親を取材したのはそんな時だ。

「徘徊」とは、辞書には「あてもなくうろうろと歩き回ること」と書かれている。これは認知症によくある「問題行動」のひとつとされているが、中には「頭がおかしくなったから徘徊するんだ」という人もいた。

 本当に「あてもなく」歩くのだろうか。

 私が西さんの母親を取材したのはデイサービスの事業所。その理由は、息子の光男さんがいると本音を語らないと思ったからだ。

 認知症になっても、自分がどういう立場にいるかはよく分かっている。この母親も、息子がいないと困るから、息子がいるところでは息子の不利になることは言わない。それに母親はこのデイサービスを気に入っていた。気に入るというのは安心できる場所のことである。だからこの事業所を選んだのだ。

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奥野修司

奥野修司

▽おくの・しゅうじ 1948年、大阪府生まれ。「ナツコ 沖縄密貿易の女王」で講談社ノンフィクション賞(05年)、大宅壮一ノンフィクション賞(06年)を受賞。食べ物と健康に関しても精力的に取材を続け、近著に「怖い中国食品、不気味なアメリカ食品」(講談社文庫)がある。

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