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正診率は98% 世界初AI搭載「超拡大内視鏡」の実力とは

医師の診断を補助する「エンドブレイン」
医師の診断を補助する「エンドブレイン」(C)日刊ゲンダイ

 AI(人工知能)を用いた国内初の医療機器の実用が始まった。今年3月に発売されたのは、大腸の内視鏡画像をAIが解析し、医師の診断を補助するオリンパス製のソフトウエア「エンドブレイン」。昭和大学、名古屋大学、サイバネットシステムが共同で研究開発した。日本が世界をリードする内視鏡分野でのAIの活用は世界初だ。

 エンドブレインは、昨年2月に発売されたオリンパス製の超拡大内視鏡「エンドサイト」と組み合わせて使う。大腸内視鏡検査で見つけたポリープを、切除が必要な「腫瘍」か、切除の必要がない「非腫瘍」かの可能性をリアルタイム(0.4秒)で判定してくれる。

 AIは内視鏡画像の何を識別しているのか。このシステムの開発研究代表者である昭和大学横浜市北部病院・消化器センターの工藤進英教授が言う。

「私たちが1991年に開発した一般的に普及する拡大内視鏡の倍率は100倍です。それで、従来は病変の形や表面の構造など(構造異型)から診断していました。一方、超拡大内視鏡の倍率は最大520倍なので、病変の細胞の形や核の腫大など顕微鏡像で病理学的な診断ができます。そのような病変の細胞異型の特徴をAIに学習させているのです」

■熟練医並みの正診率で3月から運用開始

 AIに学習させたデータは、同院をはじめ国内5施設の医療機関の約6万枚に上る内視鏡画像。それによって国内多施設後ろ向き性能評価試験では、「感度96.9%」「正診率98%」という熟練の専門医に匹敵する診断精度が得られている。感度とは、疾患のある患者のうち、検査で正しく陽性と診断された割合。正診率とは、疾患のある・ない患者のうち、検査で正しく陽性・陰性と診断された割合だ。

 加えてエンドブレインは、色素を散布して見る「染色観察」と、2種類の光を照射して病変を強調して見る「NBI観察」の観察モードにも対応している。

 また、隆起した病変のポリープだけでなく、陥凹型がんのような表面がへこんだ病変の画像データも学習させているという。

「これまでの腫瘍か非腫瘍かの平均的な正診率は70~80%程度です。専門医でないと判断が難しく、すべてのポリープを切除してしまう場合もあります。AIのサポートで正診率が上がれば、検査に伴う出血や穿孔などの合併症のリスクが減らせます。それに通常、切除したポリープの病理診断が出るまで2週間ほどかかります。エンドブレインはリアルタイムで病理学的な観察ができるので、その分、患者さんの不安も軽減でき、病理医の人手不足の解消にもつながります」

 ただし、エンドブレインによって腫瘍・非腫瘍の感度、正診率は高まるが、「がんの発見率」は別物で従来通り医師の技量によって左右される。超拡大内視鏡とAIが威力を発揮できるのは病変が見つかった時だからだ。

 実際の手順は通常の倍率で内視鏡を挿入していき、病変を見つけたら構造異型を観察し、倍率を520倍に切り替える。その状態で静止画を撮影すると、AIによって腫瘍である確率(%)が示される。どこで手を止めるかは、術者の経験によって違うという。

「私たちのAIを用いた内視鏡システムの共同開発は、まだまだ続いています。今度は『腫瘍の悪性度を識別するAI』と『大腸がんを発見するAI』を近いうちに発表できると思います」

 AIが医療分野に普及すれば医療がガラリと変わることは間違いない。

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