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【鯛のかぶと煮】調味料を控えてビタミンB1で疲労回復

鯛のかぶと煮(グリンピースご飯、卵とネギのかきたま汁)
鯛のかぶと煮(グリンピースご飯、卵とネギのかきたま汁)/(C)日刊ゲンダイ
旬の恵みを味わう<4>

 鯛は良質なタンパク質が豊富で、なおかつ味の良い魚です。うま味成分のグルタミン酸やイノシン酸がバランスよく含まれています。

 ビタミンB1も豊富ですから、疲労回復にもひと役買ってくれます。ビタミンB1はお酒を飲むことによって消費されてしまいますから、歓送迎会などで疲れやすいこの時期に、おいしく召し上がれれば言うことありません。

 そんな鯛の栄養がひときわ豊富で、味も良く、切り身よりお手頃な頭の部分を、今回は煮物にします。

 頭はタテに半分に割って使います。買う時に魚屋さんに割ってもらうのが無難でしょう。

 塩分を控えるのがこの不老不死レストランの大きなポイントですが、煮物は入れる順番によって調味料の量を控えることができます。料理でよく使われる「さ(砂糖)、し(塩)、す(酢)、せ(醤油)、そ(味噌)」、つまり粒子の大きな砂糖から順に加え、最後に香りの飛びやすい醤油や味噌を入れることによって、調味料の量を抑えながらしっかりと味を入れることができる。素材のうま味をきちんと味わうことができるのです。

 煮物の味は温度が下がるときに浸透します。今回のかぶと煮もいったん火を止めて温度を下げてから、再度、火にかけて締めの醤油を加えます。それによって鯛やごぼうによく味が入ります。

 付け合わせの春ごぼうを同じ長さに切りそろえるのは、火の通りや味の入り具合を均一にするためです。皮は洗うだけでむきません。ごぼうの泥臭い風味が鯛と合うからです。

《材料》
◎鯛の頭 1つを半割りにする
水 2カップ半
酒 2分の1カップ
しょうが千切り 4分の1カップ
◎三温糖 大さじ3
◎新ごぼう 約30センチのものを2本
◎醤油 大さじ3(うち大さじ2分の1は仕上げに)
◎木の芽 適宜

《作り方》
(1)斜めにしたまな板の上に鯛の頭を置く。熱湯をゆっくり回しかけ、取りきれていないうろこを取り除く。ごぼうを皮ごと洗って7センチに切りそろえ、太い場合は縦に半分に。真ん中にスがあれば先の細いスプーンで除く。
(2)広口の鍋に鯛の頭を並列に置いてAを加え、紙蓋をしたら強火で煮立てる。三温糖、ごぼうを加え、煮汁をかけながら5分煮て、味見をする(写真)。醤油(大さじ2と2分の1)を加え、さっと煮立てたら火を止める。そのまま室温になるまで置き、再度煮返し、味を見て締め醤油(大さじ2分の1)を加える。器に盛り、煮汁をかける。手のひらで叩いて香りを立てた木の芽をたっぷりあしらう。

(松田美智子)

春の鯛は旬の時期。“桜鯛”と呼ばれる
春の鯛は旬の時期。“桜鯛”と呼ばれる(C)日刊ゲンダイ
目の周囲の必須脂肪酸し血圧を下げて心臓疾患を防ぐ

 私は1年のうち、かなりの日数を、客員教授を務める米国NY・ロックフェラー大学で過ごしている。今やNYではスシやサシミはごく普通の人気メニュー。とはいえ、食材としての魚は(グリルしたものであっても)あくまで切り身として食べるものであり、頭や目玉がついたままだと文字通りギョッとする西洋人は多い。しかしこの目玉つきの頭(つまり、かぶと)にこそ美味と栄養が詰まっている。

 春の鯛は産卵前の旬の時期にあたり、特に桜鯛と呼ばれる。おいしいのはくちびるの肉、目の下のくぼみに詰まった頬の肉、それから裏返して硬い頭蓋骨の隙間に入っている細い身の部分である。そして目の周囲。ここにはドコサヘキサエン酸(DHA)とエイコサペンタエン酸(EPA)がたっぷり含まれている。これらはサプリメントとしても市販されている必須脂肪酸で、ヒトに不可欠な栄養素。脳細胞、網膜、精液などの主要成分であり、血圧を下げ、心臓疾患を防いでくれる。昔から丁寧に魚を食べてきた日本人の食文化の知恵を味わいたい。

(福岡伸一)

▽福岡伸一(ふくおか・しんいち) 1956年東京生まれ。京大卒。米ハーバード大医学部博士研究員、京大助教授などを経て青学大教授・米ロックフェラー大客員教授。「動的平衡」「芸術と科学のあいだ」「フェルメール 光の王国」をはじめ著書多数。80万部を超えるベストセラーとなった「生物と無生物のあいだ」は、朝日新聞が識者に実施したアンケート「平成の30冊」にも選ばれた。

▽松田美智子(まつだ・みちこ) 女子美術大学非常勤講師、日本雑穀協会理事。ホルトハウス房子に師事。総菜からもてなし料理まで、和洋中のジャンルを超えて、幅広く提案する。自身でもテーブルウエア「自在道具」シリーズをプロデュース。著書に「季節の仕事」「調味料の効能と料理法」など。

※この料理を「お店で出したい」という方は編集部(froufushi@nk-gendai.co.jp)までご連絡ください。

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