Dr.中川のみんなで越えるがんの壁

岡村孝子さんが公表の白血病は不治の病でない 8割は治る

岡村孝子さん
岡村孝子さん(C)日刊ゲンダイ

 シンガー・ソングライターの岡村孝子さん(57)が急性白血病を公表されたことで、読者の中には、1985年に27歳で生涯を閉じた夏目雅子さんを思い出した方もいるかもしれません。あの当時は、“不治の病”のようなイメージがありましたが、今は違います。白血病の種類によっては、50~80%が「寛解」といって治癒に近い状態に回復するのです。

 たとえば、俳優の渡辺謙さん(59)は89年に急性骨髄性白血病を患い、1年の抗がん剤治療で復帰。5年後に再発したものの、翌年には復帰してバリバリ活躍しています。タレントの吉井怜さん(37)も、19年前に急性骨髄性白血病に。骨髄移植で克服しています。

 白血病は、血液中の白血球が無制限に増殖する病気です。増殖した白血球は正常に働きません。相対的に赤血球や血小板が少しずつ減少することから、息切れや動悸、貧血などを生じます。

 岡村さんの病名公表後の報道に触れると、診断前は「だるい、動悸がする、疲れが取れない」と語っていたようです。先日、白血病を公表した競泳の池江璃花子選手(18)も疲労感を訴えていたのは、白血病の典型的な症状といえます。

 血小板も減少するため出血しやすい。歯磨きで歯茎から出血したり、体を少し押されたところが内出血してアザができたりするのは、そのためです。

■渡辺謙さんや吉井怜さんも克服

 白血病は、がん細胞が急速に増える急性と、ゆっくり増殖する慢性に分けられます。それぞれに骨髄性とリンパ性があって、骨髄性は中年以降の成人に多く、リンパ性は小児に多い傾向です。

 主な原因は遺伝子の偶発的な損傷で、遺伝子の経年変化によって増える傾向があります。加齢によって患者数は増加。確固たる予防はありませんが、喫煙は白血病を増やすので、禁煙をお勧めします。

 急性と慢性の比率は4対1で、急性のうち骨髄性とリンパ性の比率は成人で大体4対1ですが、小児は逆で1対4。そのような傾向を踏まえると、断言はできませんが、岡村さんは急性骨髄性白血病かもしれません。そうだとすると、病気を克服した渡辺さんや吉井さんと同じタイプです。

 治療は、抗がん剤が主体で、まず複数の抗がん剤を組み合わせて寛解を目指す寛解導入療法を行います。それで、寛解が得られると、その状態をキープする治療を継続します。吉井さんは寛解維持療法の後、結果が思わしくなかったようで、骨髄移植を受けたとされています。

 寛解とは、血液検査や骨髄検査、画像検査で調べても、骨髄の中に白血病細胞がなくなり、なおかつ白血球や赤血球、血小板の数が正常化した状態。寛解の中でも最もレベルが高い「分子生物学的完全寛解」は、白血病細胞だけでなく、血液中に原因遺伝子もいない状態です。

 今では、抗がん剤より効果的な分子標的薬も登場。岡村さんも、元気に復帰することを願っています。

中川恵一

中川恵一

1960年生まれ。東大大学病院 医学系研究科総合放射線腫瘍学講座特任教授。すべてのがんの診断と治療に精通するエキスパート。がん対策推進協議会委員も務めるほか、子供向けのがん教育にも力を入れる。「がんのひみつ」「切らずに治すがん治療」など著書多数。

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