大病患い生活をガラリと…おかげで健康寿命を手に入れた

(C)somkku/iStock

 命取りになりかねない重大病が、かえって健康をもたらすことはある。

 東京都世田谷区在住のカメラマン、Sさんが突然、心筋梗塞を起こしたのは 約10年前、41歳の時。

 スポーツジムでランニングマシーンによるトレーニング中、これまで感じたことがない胸の痛みが生じた。休んだらよくなるかと、近くにあった日焼けマシンに横になったが、痛みはますますひどくなる。

 かつて尿管結石で激痛を味わった時に「体位を変えても痛みが消えない場合は内臓に原因がある」と聞いていたため、原因は内臓だと思った。耐え難いほど痛みは強くなってくる。このままでは死ぬ! そう感じ、しかし、救急車を呼ぶと目立つのでちょっと……との思いから、必死に車を自分で運転し、病院へ行った。あとから考えれば「自分で運転」は無謀だったが、それしか頭に浮かばないほど、切羽詰まった状態だった。痛みが生じてから1時間ほど経っていた。

「時間は昼2時過ぎで、受付は終わり。胸が死ぬほど痛い、モルヒネを打ってくれ――と言ったのを覚えています。診断名は、心筋梗塞。そのまま手術になりました。術後、医師に『あれほどの痛みなら、普通は気絶するよ』と言われました」

 身長170センチ超、90キロのSさんは当時、週2、3回、腕や脚の付け根を専用ベルトで締めて血液量を制限して運動を行う加圧トレーニングをやっていた。それまではハードな格闘技をやっていたスポーツマン。加圧トレーニング以外にもスポーツジムに通うなどして、体の鍛錬に余念がなかった。

 一方、生活リズムは仕事柄、不規則。当時は多忙を極めており、深夜1?2時に帰宅、朝6?8時に出かける毎日。寝なくても大丈夫なタイプで、睡眠時間は3日で3?4時間ということもあった。付き合いで酒を飲んで帰ることもしばしば。たばこは普段は1日1箱半だが、飲むと1日3箱に増えた。

 食生活は健康のため、朝と夜の内容を逆転していた。朝に唐揚げ定食などガッツリしたメニューを取り、夜は小さい茶碗1杯のご飯、納豆、卵、サラダなど。昼は外食やロケ弁が中心だった。

「20代の頃はもっとひどかった。ほぼ毎日撮影の仕事があり、早朝から深夜まで缶コーヒーとたばこで空腹をごまかし、夜に焼肉。毎晩、4人で50人前くらいの焼肉を食べていたら、3年で15キロ増えました」

 医師からは「今の生活を続けると、死ぬよ」とハッキリ言われた。死ぬのはいいが、痛いのは勘弁だ、と思った。心筋梗塞の痛みは、バイクを100キロのスピードで飛ばして車に突っ込みバイクが廃車になるほどの怪我を負った時よりも、はるかに痛かった。

「生活をがらりと変えました。たばこはスッパリやめた。栄養士に1日の野菜の摂取量を教えてもらい、実践。両手に山盛りくらいのサラダは必ず食べるようにし、外食時もサラダを頼む。青汁も飲んでいます。夜9時以降は何も食べないようにし、逆に朝食は必ず取るようにしました。たまに自宅でウイスキーを1、2杯飲んだりしますが、基本的には自宅では飲まない。睡眠も、きちんと取っています」

 我慢や無理はやめた。仕事を詰めすぎず、休みをきちんと確保。先のことはくよくよ考えない。運動はハードすぎず、心臓に負荷をかけない、軽く汗をかく程度のものを選ぶ。加圧トレーニングは、血液量を制限して運動を行うことに不安を覚え、心筋梗塞以来、遠ざかっている。

「健康体だった時を100とすると、今の力は80くらい。この体と付き合っていくしかない」とSさんは言う。しかしそれが、健康寿命を延ばすことに役立っているのは確かだろう。災い転じて福となす、なのだ。

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