市販薬との正しい付き合い方

1回5000万円 超高額な遺伝子治療薬の販売が医療業界に一石

医療・医薬品の進歩はどこまで進み、医薬品の価格はどこまで上がるのだろうか
医療・医薬品の進歩はどこまで進み、医薬品の価格はどこまで上がるのだろうか(提供写真)

 薬の生い立ちを考えてみましょう。

 原始時代のような大昔にはもちろん今のような薬はなく、自然界にある物=天然物を「こういう症状の時にはこれを食べたらいい」といった知恵として使用していました。いわゆる伝承療法(民間療法)です。

 その後、これらが「生薬」として使われるようになり、さらに後には、成分抽出、分析、合成できるようになって、「合成化合物」が薬の主流になりました。

 1990年代後半には「抗体製剤」という合成化合物ではない新しいタイプの薬が最先端のバイオテクノロジー技術によって生み出され、がん、リウマチ、骨粗しょう症などさまざまな疾患の治療薬として使用されるようになりました。有効性と安全性が高く素晴らしい薬である一方、大量生産が難しいという点から価格が高く、高額薬剤について議論されるようになったのもこの頃からです。ノーベル医学・生理学賞に選ばれたことで有名になった皮膚がんや肺がんに用いられる「オプジーボ」(ニボルマブ)も、抗体製剤で高額薬剤の一種です。また2017年には、「核酸医薬品」という全く新しいタイプの薬である「スピンラザ」(ヌシネルセン)という脊髄性筋萎縮症に使う薬が発売され、1本932万円の超高額薬剤として話題となりました。

 他にも新しいタイプの薬として、「ヒト幹細胞」を治療薬として用いる再生医療等製品「テムセル」も使われるようになっています。

 そして今年、さらに新しいタイプの医薬品として、自分の血液を一度取り出し、遺伝子治療を施してから再び体内に戻す腫瘍特異的T細胞輸注療法(CAR―T療法)で使用される「キムリア」が発売されることになりました。この薬は、米国では約5000万円の薬価がついている超超高額薬剤であることと、遺伝子治療薬であるという点で、医療業界に一石を投じる薬になるのは間違いないでしょう。

 医療・医薬品の進歩はどこまで進み、医薬品の価格はどこまで上がるのでしょうか。先端医薬品が開発されて、治療が進歩するのは喜ばしいことです。

 その一方、保険制度の破綻や高額ではない薬剤開発の停滞に対する医療の負の側面も十分に議論されるべきだと強く感じます。

神崎浩孝

神崎浩孝

1980年、岡山県生まれ。岡山県立岡山一宮高校、岡山大学薬学部、岡山大学大学院医歯薬学総合研究科卒。米ロサンゼルスの「Cedars-Sinai Medical Center」勤務を経て、2013年に岡山大学病院薬剤部に着任。患者の気持ちに寄り添う医療、根拠に基づく医療の推進に臨床と研究の両面からアプローチしている。

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