「3年前に退職した父が、認知症と診断されたら家に引きこもってしまいました。どうすればいいのでしょうか?」
こんなケースが少なくない。私が知っている限り男性に多いようだ。とくに社会的地位が高い男性ほど引きこもりやすいといわれる。輝かしい経歴を持ちながら、認知症になったことにプライドが許せないのだろうか。実際、引きこもっていた当事者にたずねるとこう言われた。
「認知症になったら、いずれ話ができなくなって徘徊もするんだろうな。こんな病気になって恥ずかしい。誰にも見られたくない。そう思ったら外に出られなくなった」
認知症になって引きこもると、症状が早く進行するといわれる。放っておけばうつ病になることも多い。かといって、家族が外に連れ出そうとしても、なかなか本人は外に出てくれない。ではどうすればいいのか。
引きこもっていた人が外に出るには、何らかのきっかけが必要のようである。
たとえば広島の竹内裕さんは、同期生の還暦祝いに無理やり連れ出され、酒を飲んでいるうちに居直ったという。佐世保の福田人志さんは、自分が創作した「壱行の歌」の展示会を開いたことがきっかけでカミングアウトした。
また「Dシリーズ」という認知症ソフトボール大会でMVPに選ばれた曽根勝一道さんは、喜びのあまり、ついカミングアウトしてしまった。村山明夫さんは、デイサービスなんか絶対に行かないと言ってたのに、町田市の「DAYS BLG!」という事業所を見学した途端に通所するようになり、今では大勢の前で講演までしている。
比較的多いのは、家族が説得するより、同じ年代の第三者に誘われて外に出るようだ。誘われた先で納得するものがあったり、認知症になっても人に役立てることが実感できたりすれば、たとえ2年、3年と引きこもっていても1日でカミングアウトする。カミングアウトして毎日を生き生きと過ごすようになれば症状の進行も緩やかになり、結果的に家族の介護が楽になるのだ。
これで認知症介護は怖くない