独白 愉快な“病人”たち

肺腺がんで手術 東てる美さんが抗がん剤治療をやめた理由

東てる美さん
東てる美さん(C)日刊ゲンダイ

 肺腺がんとわかったのは、テレビ番組で受けた検診がきっかけでした。去年7月に放送された「名医のTHE太鼓判!」(TBS系)で心臓のCTをとった時、左肺に影が映ったんです。再検査を勧められ、後日、入院して気管支鏡検査を受けたところ、肺腺がんと判明。左肺の下のほう、横隔膜にくっついているあたりに3センチぐらいのがんが見つかりました。

 自覚症状はなし。だから発見が遅れがちだそうです。私は毎年春にレントゲンなどは受けていたんですけど、異常を指摘されたことはありませんでした。たまたま、仲良しの渡部絵美ちゃんが同じ番組に出演した時、食事シーンの撮影に私を呼んでくれて、その縁で後日、私も出演することになり、がんを発見できたんです。絵美ちゃんは恩人ですね。

 おかげで、ステージⅠBと早期で発見できました。セカンドオピニオン、サードオピニオンも受けましたけど、どの先生も「これは手術。手術できるということは良いことなんですよ」とおっしゃいました。だから「手術をしてがんを取ったら治るんだ!」と思うことができて、目の前が真っ暗になるようなショックはありませんでした。

 7月に手術を受け、腹腔鏡で左脇の2カ所に穴を開け、4・5センチの開腹もして左肺の5分の2を切り取りました。約5時間の手術でした。さすがに手術の時は誰かにいてほしくて、絵美ちゃんに付き添ってもらいました。

 私は24年前に離婚してずっと一人暮らしで、一人娘はハワイで家庭をもっています。娘には「帰ってきて」なんて絶対に言わない。心細いとも思いません。ずっと仕事してきたからかな。

 手術の時、リンパも13個切り取り、そのうちのひとつにがんが見つかったのでステージⅡBに。再発予防のために再入院し、去年の10月30日から抗がん剤治療を始めました。

 3週間1クールの治療を4クール受ける予定でした。ただ、1クール目は楽勝だったんですけど、2クール目で激しい耳鳴りや味覚障害といった副作用が出たので治療をやめました。それが12月5日です。娘には猛反対されましたけど、予防のための治療だったので、お医者さんからも引き留められませんでした。

■再発や転移は運。私はついているから大丈夫と信じている

 私は父を胃がん、母を子宮がんで亡くしました。母は9年前に77歳で亡くなったんですけど、ステージⅢで抗がん剤治療を受けたのに、結局、1年2カ月で亡くなってしまいました。母が「つらいからやめたい」と言っていたのに、私が「続けてほしい」とお願いしたんです。だから、あれで良かったのかな? 残された時間を入退院の繰り返しで苦しい思いばかりさせてしまった。抗がん剤治療はやめて旅行でも行って思い出をつくったほうが良かったんじゃないか……とすごく後悔しました。

 それで、私は必要ないガマンはしないことにしたんです。もう絶対に再発や転移がないという保証があるなら抗がん剤治療を続けるけれど、ガマンして続けても保証はないですからね。

 肺がんはⅠBだと5年生存率70%だからほぼOK。手術してⅡBに上がって、いきなり50%とハードルが高くなっちゃった。でも再発や転移は運。「いい方に残りゃいいんだ。私はついているから大丈夫」と信じています。

 そもそも私はもう若くはありません。仕事はそこそこしてきたし、子供を育てあげ、孫も見せてもらった。両親も送りました。人生、思い残すことはないんです。誰だって死ぬんだから、抗がん剤治療をやめたせいで死期が早くなっても後悔はありません。抗がん剤治療をやめて、しばらくはしんどい時もありました。耳鳴りは今もひどくて、両耳でセミがずっと鳴いている感じで煩わしい。テレビのボリュームが上がって、話し声が聞こえにくかったりします。でも、耳鳴りに効くお薬はないらしいです。

 味覚障害はだいぶ改善しました。お味噌汁の濃さがわからなかったり、和食の繊細なおいしさがわからなかったりしますけど……。だから、今はスパゲティナポリタンにタバスコをいっぱいかけるのがごちそうです(笑い)。

 あとは脱毛ですね。今は髪が以前の3分の1ぐらいの量になっちゃった。ただ、2~3センチの短い毛がたくさん生えてきているんですよ(笑い)。

 経過観察のために毎月受診し、肺腺がんは骨と脳に転移しやすいので、3カ月に1度は脳のMRIを撮っています。おかげさまで転移はなくて元気です。抗がん剤治療をやめて間もなく、趣味のフラメンコを再開して、生活は手術前とあまり変わらなくなりましたね。

 毎日、本当に忙しい(笑い)。フラメンコだけじゃなくて、ストレッチ、エステ、友達と食事やカラオケ、買い物、舞台も楽しんで、仕事もして、病院も行って。ゴルフもやっていますし、チワックス犬を2匹飼っているから、毎日1時間は散歩しています。一時はやめていたお酒やたばこも抗がん剤治療を中止してから復活しました。

 ただ、以前より体に気をつけるようにはなりましたよ。健康食品を取ったり、岩盤浴やラジオ波で体をあまり冷やさないように気をつけたり、ファスティング(断食)をして免疫力を上げたりしています。最後まで自然に、自分らしく生きたいですね。

 (聞き手・中野裕子)

▽あずま・てるみ 1956年、東京・板橋生まれ。高校在学中に女優デビューし、日活映画で活躍。90年から23年間続いたホームドラマ「渡る世間は鬼ばかり」(TBS系)で小姑・邦子役を演じ、幅広い人気を獲得した。

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