人生100年時代を支える注目医療

ブタの力でヒトの腎臓を作る 再生医療技術はここまできた

横尾隆主任教授
横尾隆主任教授(C)日刊ゲンダイ

 日本臓器移植ネットワークに登録する献腎移植を希望する腎不全患者は約1万2000人。このうち腎移植を受けられる患者は毎年約1~2%で、登録から移植までの平均待機期間は約15年とされる。
この問題を打開しようと、腎臓の再生医療実現に向けた取り組みが始まった。

 共同研究・開発に取り組むのは、東京慈恵会医科大学、明治大学、再生医療ベンチャー(2社)と大手製薬会社の5者。2020年代の実現を目指している。

 この再生医療には、iPS細胞を用いた「胎生臓器ニッチ法」という方法を使う。どんな技術なのか。

 すでに胎生臓器ニッチ法による腎臓再生を動物間(ラット―マウス)で成功、確認している東京慈恵会医科大学内科学(腎臓・高血圧内科)の横尾隆主任教授が言う。

「動物の発生段階である母体内の胎仔の体の中には、受精卵から分化した各臓器の幹細胞(前駆細胞)が成長する『ニッチ』という場所があります。胎生臓器ニッチ法は、動物の胎仔のニッチに、別の動物から臓器の前駆細胞を注入し、臓器に成長させる方法です」

 ニッチはいわば臓器の“赤ん坊”を育てる“保育所”のような場所。簡単に言えば、臓器が作られる場所を別の動物から借りるというわけだ。

 これを人の腎臓再生に置き換えると、手順はこうなる。まず、ヒトiPS細胞から腎臓の“芽”となるネフロン前駆細胞へ分化誘導する。それを動物のニッチに注入するわけだが、人間と同じくらいのサイズの動物でないとダメ。

 そこでブタの胎仔(3センチくらい)のニッチを使う。ニッチはどこにあるかといえば、1ミリほどの腎原基という細胞群の中。その腎原基を顕微鏡下で取り出して、ネフロン前駆細胞を注入する。

 しかし、疑問がある。ブタの腎原基のニッチ内には既存の前駆細胞があるはず。混ぜてしまっていいのか。

「普通のブタの腎原基にそのまま注入してしまうと、2系統の前駆細胞からできたキメラ腎臓ができてしまいます。ですから、腎原基は明治大学の研究成果である『ヒト腎臓再生医療用遺伝子改変ブタ』の胎仔から採取したものを使います。既存の前駆細胞がいなくなる遺伝子操作が加えられているので、注入した前駆細胞だけが残ります」

 後は、そのネフロン前駆細胞を注入した腎原基(凍結保存できる)を腹腔鏡手術で、患者の後腹膜に移植する。4週間ほどで腎原基に血管が侵入して発育が継続し、尿が作られるようになったら再度、腹腔鏡手術で尿管とつないで排尿できるようにするという。

「腎原基は4週間で30グラムほどに育ちます。人の腎臓の5分の1ですが、腎臓は10%くらい機能していれば生きられます。腎原基を1~2個移植することになると思います」

 ただし、この腎臓再生医療の研究開発は始動したばかりで、すぐに人に応用できるわけではない。マウスやラットでは成功したが、大きな動物では何が機能して、何が機能しないか、最初はサルなどを使って慎重に研究を進めていくという。

「iPS細胞を用いた再生医療は、細胞やシートは何とか作れますが、3次元の臓器を作れるようになるまではかなり時間がかかるでしょう。それまでに臓器発生のプログラムが働く環境を動物から借りるという手があります。生物の神秘を利用するのです」

 胎生臓器ニッチ法による人での腎臓再生が実現すれば、将来的には他の臓器に応用できる可能性があるという。

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