進化する糖尿病治療法

しっかり運動をしているのに…逆に体重が増える理由

坂本昌也氏
坂本昌也氏(C)日刊ゲンダイ

「なぜ太ってしまったんでしょう? しっかり運動をしているのに」

 こう話すのは、半年前に糖尿病予備群と診断された40代の男性。今まで運動をまったくしてこなかったのですが、一念発起してスポーツジムに入会しました。奥さんも一緒です。

 そのジムは、各自がそれぞれ道具を使って運動をするシステムではなく、時間ごとにさまざまなプログラムが設定されており、利用者は希望日に予約を入れて参加するというもの。

 運動時間そのものは20分ほどと短いですが、結構ハードな内容で、プログラム終了時には息が上がってしばらく立ち上がれなくなることもしばしば。

 しかし、その爽快感が病みつきになり、週1~2回は通っているとのこと。

 運動を始められた方から、「一生懸命やっているのに全然やせない」「かえって体重が増えた」と聞くことが時々あります。

 たいていの場合、運動後の食事に問題があります。夫婦でスポーツジムに通い出した男性も、まさにそうでした。

 お話を伺うと、ジムの後にがっつり飲んで食べている。「運動してエネルギーを消費したから」という気持ちがあるため、ついつい、欲望のおもむくままに店やメニューを選んでしまうのです。

 ある日のジム後の食事内容を聞くと、居酒屋でお刺し身、揚げ出し豆腐、ハムカツ、注文を受けてから土鍋で炊く炊き込みご飯を2人で食べたそうです。日本酒を飲みながら……。お刺し身はいいとしても、揚げ物2品と炊き込みご飯は明らかに摂取エネルギー過多。

 おまけに、仕事終わりにスポーツジムへ行くので、それを終えてからの食事時間は随分と遅くなり、夜10時前後。これもよくありません。

 運動をした後は、体は飢餓状態になっており、栄養の吸収が通常より良くなります。このタイミングで取ってほしいのは、筋肉を作るタンパク質やビタミン、ミネラル。なお、運動後の食事としては、たくさん市販されているプロテイン商品を利用している人もいるでしょう。私個人の考えとしては、長期的に見るなら、食事でしっかりとタンパク質を取る習慣をつける方がいいと思います。

 さて、冒頭の男性の食事メニューですが、お刺し身くらいでしかタンパク質を取れていない。豆腐やハムもタンパク質が含まれているものの、揚げているのでカロリーを取り過ぎることになります。また、炊き込みご飯の糖質は、仕事や頭脳活動を行う前(一般的には朝や昼)には取るべきですが、これから寝るだけというタイミングでは控えた方がいいです。

 運動は、確かにエネルギー消費につながります。しかし、思っているほど多くなく、運動後の食事内容によっては、消費エネルギーより摂取エネルギーの方が上回ることはよくあります。

 消費エネルギー(キロカロリー)は、「1.05×運動(METs値・時間)×体重(キログラム)」で出します。たとえば、時速8キロのランニングのMETs値は1時間当たり8・3。体重50キロの人が1時間走った時の消費エネルギーは、「1.05×8.3×50=435.75キロカロリー」です。運動を免罪符にして、焼き肉屋でビールを飲み、肉をたっぷり食べ、冷麺でシメれば、摂取エネルギーが消費エネルギーをやすやすと超えてしまいます。これでは太って当然ですね。

 生活習慣病対策を考えるなら、運動だけではなく、食生活改善も必須です。“耳にタコ”かもしれませんが、バランスの取れた食事内容で、朝、昼、夜と決まった時間に取る。脳を使う主に朝と昼には糖質を取り、夜は軽くお茶碗1杯程度にとどめておく。寝る直前の食事は避ける。

 習慣的に運動をし、筋肉量を増やせば、基礎代謝が上がり、太りにくい体になります。同じ50キロの体重でも、筋肉がどれくらいあるかによって太りにくさ・太りやすさが変わってくるのです。

 そういう意味では、体重や肥満度を見る体格指数(体重キログラム÷身長メートルの2乗)に加えて、基礎代謝量と内臓脂肪量もチェックした方がいいでしょう。今は数千円で体重、基礎代謝量、内臓脂肪量を量れる体重計を買えます。ぜひそれを手に入れて、できれば毎日量ってほしい。

 私が一番いいと思う体重計を置く場所は、風呂場の脱衣所。たいていの人が毎日風呂に入りますよね? すると、毎日体重計が目に入る。測定の習慣が容易に身に付きます。

 できれば、測定した数値はメモしておくといいですよ。

坂本昌也

坂本昌也

専門は糖尿病治療と心血管内分泌学。1970年、東京都港区生まれ。東京慈恵会医科大学卒。東京大学、千葉大学で心臓の研究を経て、現在では糖尿病患者の予防医学の観点から臨床・基礎研究を続けている。日本糖尿病学会、日本高血圧学会、日本内分泌学会の専門医・指導医・評議員を務める。

関連記事