これで認知症介護は怖くない

薬の数を減らして調整すると暴言も暴行もピタッとやんだ

(提供写真)

 高齢になると、認知症以外にもさまざまな疾患があって次々と薬を出されるが、家輔さんは18剤もの薬を飲んでいた。特に注意したいのはベンゾジアゼピン系の抗精神病薬である。この薬は筋肉量を低下させるので転倒の原因にもなる。結局、18剤を5剤以下に減らしたら、「魔法のように」暴言・暴行が消えたという。

 もうひとつの原因は、家族との関係性である。これまでも述べたが、「また忘れて!」といった励ましの言葉が続くと、本人は「叱られている」と受け止めて必死に耐える。あるいは「認知症だから何も分からない」と思われて家族からカヤの外に置かれると、寂しさでいたたまれなくなる。やがて精神的に限界がくると、やさしい人は家出をしたり、勝ち気な人は暴力を振るったり怒鳴ったりすることで抵抗する。

 問題の解決はそれぞれ違うが、前者は、6剤以上の薬を飲んでいたら、医師に相談して減らすことだ。後者は、「認知症だけど、ちょっと障害があるだけで私たちと同じなんだ」と考え、以前の家族関係に戻すことだ。

「居心地がいい」と感じれば、誰だって暴れることはないはずである。

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奥野修司

奥野修司

▽おくの・しゅうじ 1948年、大阪府生まれ。「ナツコ 沖縄密貿易の女王」で講談社ノンフィクション賞(05年)、大宅壮一ノンフィクション賞(06年)を受賞。食べ物と健康に関しても精力的に取材を続け、近著に「怖い中国食品、不気味なアメリカ食品」(講談社文庫)がある。

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