人生100年時代を支える注目医療

保険でカバーできる「傷が残らない」甲状腺の内視鏡手術

片山昭公センター長(左下) 手術の傷跡はほとんど目立たない(左上)
片山昭公センター長(左下) 手術の傷跡はほとんど目立たない(左上)(C)日刊ゲンダイ

 喉仏のすぐ下にあり、ホルモンを分泌している甲状腺。シコリができて大きくなる結節性甲状腺腫やがん(乳頭がんなど)、ホルモン分泌が過剰になるバセドー病などの疾患では、手術が必要になる場合がある。

 甲状腺疾患は女性に多く、一般的に行われている頚部外切開手術は首に5~8センチの傷痕が残るので嫌がる人が少なくない。それが近年、首に傷痕が残らない甲状腺の内視鏡手術が保険適用になっている。

 しかし、実施している病院(全国30施設ほど)は意外と少ない。なぜなのか。甲状腺の内視鏡手術を専門に行っている札幌徳洲会病院・甲状腺内視鏡サージセンター(札幌市)の片山昭公センター長が言う。

「保険診療で行うためには、外科(内分泌外科)または耳鼻咽喉科(頭頚部外科)の専門医資格を有し、診療経験年数が10年以上で、かつ、内視鏡手術の執刀医としての経験症例数が5例以上の常勤医が在籍しているという厳しい施設認定条件があるからです」

 甲状腺の内視鏡手術の歴史は、日本医科大学内分泌外科の清水一雄名誉教授が世界に先駆けて、1998年にVANS法を開発したことからスタートしている。

 国内では2014年に先進医療になり、16年に「部分切除、腫瘍摘出術」「バセドー病の全摘術」「副甲状腺手術」が保険適用に、続いて18年に「甲状腺がん」が保険適用になった。

 ただ、先進医療のときは全国9施設のみで集約されて行われてきた経緯があり、研修場所の少なさから執刀医要件をクリアする医師の数がまだ少ないことが、普及が進んでいない理由。保険適用のすべての内視鏡手術を実施する病院は、同センターを含め全国で数施設しかないという。

 片山センター長は、旭川医大在籍当時の09年に清水教授のもとでVANS法の研修を受け、これまでの手術数は約560例。いまでは他院からの研修医師を年間10人前後受け入れ、甲状腺内視鏡手術の普及に尽力するひとりだ。

■首の傷は5ミリ1カ所

 では、首に傷を残さず、どのように内視鏡を挿入して手術をするのか。

「VANS法で切開するのは、開襟のシャツで隠れる鎖骨の外側下に2・5センチ程度のシワに沿った切開1カ所と、首には内視鏡を挿入する5ミリの切開1カ所だけ。首の傷はわずかなので残りません。鎖骨下の傷も小さいのでほとんど目立たない。傷が盛り上がるケロイド体質の人でもシャツで隠れてしまいます。従来の外切開手術では1週間程度の入院が必要ですが、例外を除くとVANS法ではほぼ全例で術後3日目に退院しています」

 内視鏡手術は多種多様の器具を用いるので手術時間は外切開手術に比べて30分程度長くなるが、片側摘出の場合で1~2時間程度だという。合併症の発症頻度は術者の経験と技量に依存するが、安全性は外切開手術と変わらない。片山センター長の約560例のうち、永続的な反回神経麻痺(声がれ)は2例、術後出血は8例で、従来の方法に対してまったく遜色はない。

 また、片山センター長はVANS法を円滑に行うための器具も考案し、医療機器メーカーから販売されている。内視鏡手術用の切開凝固装置(切って止血する機器)も、より安全性と処理能力の高い高周波凝固装置をメーカーと共同開発。これらの術式の改良によって、少人数・低コストの手術が可能になっている。

「内視鏡手術は施設によって適応基準が若干異なりますが、首を切らなくてもいい手術の選択肢があることをひとりでも多くの患者さんに知ってもらいたいと思います」

関連記事