これで認知症介護は怖くない

バリアフリーにすると変化についていけない当事者もいる

段差の認識がなくなってしまう…
段差の認識がなくなってしまう…

「せっかくバリアフリーにしたのに、認知症の父は歩きにくそうにしているし、何度かつまずきました。何のためにリフォームしたのやら……」

 最近も近所の人からこんな嘆きを聞いた。

 家族の誰かが認知症になると、いずれリフォームするんだから、症状が重くなったときのことを考えてバリアフリーなどにリフォームする人が多いようだ。

 完全なバリアフリーにリフォームするのはいいとして、問題はその時期である。たとえば①認知症でない時期、②軽度の認知症と診断された時期、③ある程度症状が進行し始めた時期が考えられるが、①や②はまだいいとして、問題は③でリフォームする人が意外に多いことである。

 認知症当事者からこう言われたことがある。

「完全なバリアフリーは、足を上げる機能をなくしてしまいます。さらに段差があるという認識がなくなり、ちょっとした段差でも転んでしまうのです。軽度の人なら普段から足を上げることを意識すれば、バリアフリーでなくても大丈夫です」

 この連載で紹介した「DAYS BLG!」も典型的な非バリアフリーだ。それでも、これまでつまずいて倒れた利用者はいない。

 認知症の症状が進むと、視空間認識に障害が出てくる方がいる。すると床板の継ぎ目の黒い線が段差に見えたり、黒い板があると、そこが浮き上がって見えたりもする。

 普段から段差がある生活をしていると、うまく体を動かしてまたぐこともできるのだが、家の中に段差がない生活をしていると、急に段差が現れたらバランスを崩して転んでしまうのである。

「段差は危ないからバリアフリーにするというのは、家族の考えなんです」

「BLG」運営者の前田隆行さんは言う。

「今まで畳で寝起きしていた人が介護用ベッドを入れると、逆に転んでしまうことがあります」

 将来を考える家族の気持ちも分からなくはないが、認知症はその人によって表れる症状はさまざまだ。先手を打ってリフォームすると、ついていけなくなることもある。リフォームしていいのは①の場合だろう。

奥野修司

奥野修司

▽おくの・しゅうじ 1948年、大阪府生まれ。「ナツコ 沖縄密貿易の女王」で講談社ノンフィクション賞(05年)、大宅壮一ノンフィクション賞(06年)を受賞。食べ物と健康に関しても精力的に取材を続け、近著に「怖い中国食品、不気味なアメリカ食品」(講談社文庫)がある。

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